雪割草
「まぁいい。…早いとこ、力加減に馴れろよ。それにしても痛いな…」
「すみません…」
それから何度となく兄と組み合い、力の入れ具合は解るようになってきた。
すると平太郎はホッとした様子で早苗に言った。
「少しは慣れみたいだな。…でもお前、力がえらく強い。怪力じゃないか?」
貶されたと思った早苗はムッとした。
「可愛い妹に向かって怪力とはなんですか!」
平太郎はその言葉を笑った。
「ハハハハハ! 今はどこからみたって弟だぞ。…そうだ、汗かいたろ? 風呂入ってこい」
早苗は怒るのも忘れ、大好きな風呂と初めての休憩の魅力に心を奪われた。
「やった、休憩だ…」
しかし、兄は甘くは無かった。
「そのあと剣術の補習だ。お前ボロボロだからな」
「はい…」
少しがっかりした早苗だったが、風呂の魅力が彼女の心を占めていた。
ウキウキしはじめた彼女に、平太郎が心配そうに声をかけた。
「一人で入れるか?」
「へ?」
「…厠よりキツイかもしれんが、大丈夫か?」
先ほど自身の身体の変化に驚き泣いた事を思い出し、一瞬鳥肌を立てた。
しかし、彼女は気丈に言った。
「大丈夫です!」
その声を聞いた平太郎は、安堵の表情を浮かべ妹に笑顔を向けた。
「ゆっくり入って疲れをとって来い」
早苗は、風呂場へと向かった。