子羊は魔法で踊る
いつからだったろうか、こんな目にあいだしたのは
物心ついたころから体には生傷が絶えなかった
両親は活発な証と呆れながら喜んでいたが俺自身は悲しかった
この傷は隣のアイツとその友達のアイツらが俺の事を叩いて蹴って抓って出来た傷なんだ
俺は大して元気なわけじゃないし、本を読んだりする方が好きだ
何より庭とかにいる小さな友達と話すのが好きだ
人形より小さな体に夢のような衣装を着て蝶や蜻蛉の羽をはやした彼女たちは俺と仲良くしてくれる
美味しい果実がどこにあるかだとか薔薇が一番綺麗に咲く方法だとか秘密の隠れ家だとか、
でもそれを他の人に話すと嘘吐きと呼ばれる
そして叩かれるし蹴られるし抓られる
だからなるべく人と会わないようにして小さな友達とおしゃべりをして遊んでいた
・・・・・・菊と出会うまでは
最近引っ越してきたという菊は(巨大会社の社長を父に持つ彼は安全を重視してアーサーの住む郊外の町に引っ越してきたのだ)同い年とは思えないぐらい大人っぽくて綺麗で優しかった
俺に痛い事をしないし、小さな友達の事を信じてくれた
『私にも昔、見えたことがあるんですよ。小さな女の子が』
そう言って一緒に野苺をつまんだ日の事は今でも覚えている
「じゃあこの問題、そうだな・・・カークランド、いけるかー?」
理科教師の声がして俺の意識は現実に戻る
「え、あ、はい」
黒板に向かって人体の各部の名称を書き込んでいく
心臓
肺
動脈
静脈...
「よし、正解だ。さすがだなぁ」
教師の声に軽く頭を下げて自らの席に戻る
冷たい視線は消えない
わざと横に出された足を躓かないように避けて席に着く
露骨な舌打ちがうざったい
「教科書しか友達いねぇんだろガリ勉」
耳元でささやかれても動じない
反応したら負けだ。
相手はまた舌打ちをして俺の手の甲にシャープペンシルの芯を突き立てる
跡がついてしまうからこれは勘弁してほしいのだが言ったところで何にもならないんだろうから無視する
ただ、菊に見られていないかだけに気を配ってその時間をやり過した