子羊は魔法で踊る
ある日の朝、教室に入ったら机の上に何かが置いてあった
近づいて、理解した。
・・・・・・・・・・・・花瓶だ。
サァッと血の気が引いていく。
普通、個人の机の上に花瓶が置かれるのはその生徒が故人となった場合だけだ。
そして、いけられた菊の花は葬式に使われるものであることも知っている
「ッツ――――」
クスクス笑いは止まらずに教室を満たしていく
ムワッと菊の独特の香りがして頭がくらくらする
個人的には美しい花だと思うし、同じ名前を冠した彼のこともあって菊の花は好きだ
しかし葬式で使う花としか思っていない奴らの意図は分かる
「嬉しいでしょアーサー?」
「お前菊のこと好きなんだろ?おめでとう両思いだな」
「感謝しろよ。俺らが恋のキューピッドになってやったんだから」
馬鹿みたいな笑い声が強くなる
ギリッと握りしめた歯がなる
目頭が熱くなってくるがコイツらの前で涙を流したらお終いだ
必死に耐える
そんな中にガラッと音がして誰かが来たことを告げる
おはようございます
一番愛する声がしてしまった、と肩を震わせる
・・・・・菊に、見られた
菊の方を振り向けば驚いたように目を丸くして口元に手を当てている
その瞳は確実に俺と、机の上の花を捕らえていた
見られた。こんな姿を見られてしまった
思い出したようにツカツカと俺の方に歩み寄る菊から逃げるように走って廊下に出る
「アーサーっ!!」
菊の声が追いかけてきたけど足を止めずに生徒玄関をくぐる
登校中の生徒の流れに逆らう俺に幾人かの教師が声をかけるが無視して自転車に飛び乗る
とにかく学校から離れた何処かへ行きたい。
そうしてたどり着いたのはいつの日か逃げ込んだ『俺の居場所』だった