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千日紅

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絶対におかしい。美帆にドキドキする。
でも、身体に異変は無い。鼻血が出たり、変な風になったりはしない。
でも、心がおかしい。
美帆を抱き締めたい。チュってしたくなる。微笑みかけてもらいたい。
そういえば、助三郎さまに聞いたっけ。好きな女を見るとどうなるか。
まったく一緒だ……
怖い。
中身まで男になったら、どうなるかな?
元に戻ったあの人を好きな男として旦那さまとして見られなくなるかも……
そんなの、怖い。

いつか女に戻れなくなった時に感じた恐怖より遥かに強い恐怖を感じていた。



対する助三郎は、家の庭で飼い犬とじゃれながらも、悩んでいた。
犬は雄のクロ。
結婚する前の旅で、助三郎が拾った、名前通り真っ黒な雑種の犬。
助三郎が一番好きな上、かなり賢いので彼が女に変わっても平気で近寄って来た。
いつもと変わらない犬と対照的な、今の自分と妻の関係の異様さを比べて助三郎は不安になった。


どうして格さんにドキドキする?
見つめられると、苦しくなる。ニコッとされると胸が張裂けそうになる。
女の早苗にされたら間違いなくそうなる。それは普通だ。
でも男の格さんに、一番の親友になるなんておかしい。
…もし、本当に、心の中まで女になったら、怖い。
格さんは好きだ。でも、『友達』であって『男』じゃない。
中身は愛する早苗だが、姿は男だ……


夫婦そろって複雑な悩みを抱えていたが、誰にも相談ができなかった。

二人は必死に、普通の夫婦でいようと躍起になりはじめた。
そのせいか、男と女になっているときは極力顔を合わせないようになった。
しかし、そのせいで互いが互いを嫌がり、嫌っているから避けているのではと疑心暗鬼になってしまい、夫婦は会話が少なくなりはじめた。
まさに、夫婦の危機だった。





そんなある日、早苗は家に忘れ物をしたまま出仕した。
忘れたのは、助三郎が初めて彼一人ですべて手作りした弁当だった。

すこしがっかりする助三郎を哀れに思って、母の美佳は娘を呼んだ。

「千鶴、これ格之進に持って行ってくれるかしら?」

「はい。じゃあ、姉上一緒に行きましょ!」

その言葉に、落ち込んでいた助三郎だったが、しっかり妹に反撃した。

「兄上!姉じゃないの!」

「もう、じゃあ兄上。ついでにお出かけしませんか?」

「え?」

妹の意外な言葉に助三郎は驚いた。

「格之進兄上にお弁当届けて、そのあとお出かけ!ずっと家で腐ってても面白くないでしょう?兄上ずっと落ち込んでで、暗いから。ね?」

「……」

女になってから家の外には庭以外出てはいない。
いい加減うつ病になりそうだったので気分転換になる。
それに、妹と二人で出掛けられるのはまたとない機会でうれしかったが、問題があった。
格之進だった。

今朝早苗とは普通に会話をしたが、格之進とは顔を合わせていない。
会うのが少し怖かった。

どうしようかと助三郎が考えているのを無視し、千鶴は彼をけしかけた。

「さぁ、姉上が作ったお弁当でしょ?持って行ってあげないと」

「……でも」

「さぁ、行くの!」


結局、妹に引っ張り出され、職場に向かうことになった。
二人はすぐさま御目付のお銀に見つかった。

「あら、お二人さん。どこ行くの?付いていきましょうか?」

「来なくていい!大丈夫」

佐々木家に入り浸って暇な日々の相手をしてくれるのはいいが、
完全女扱いしてくる態度が助三郎には気に食わなかった。

「もう、まだ怖い女の子ねぇ。もう少し可愛くなりなさいよ」

「フン!女じゃないから可愛くなんかない!」

「姉上、お銀さんに失礼ですよ。そうそう、格之進兄上の所へお弁当持って行くんです」

「だから、お銀は帰って!」

お銀を追っ払おうとしたが、無意味だった。
代りにものすごくイヤなことを言われた。

「まぁ、美帆ちゃん。愛しの格之進さまに手作り弁当?」

その言葉に千鶴が乗った。

「はい。姉上が、格之進兄上のために一生懸命作ったんですよ」

悪乗りするお銀は今の助三郎には問題のあることを言った。

「やるわねぇ。ついでに、あーんしてあげなさい。喜ぶわよ」

一瞬、助三郎の脳裡にその光景が浮かび、ドキッとしたが、すぐに打ち消して怒鳴った。

「そんなことしない!」



結局、お銀は別の用事があるそうで、職場には兄妹で向かうことになった。
屋敷の門番に訪問の趣を告げると、助三郎と格之進が務めている部署に案内された。
そこで、千鶴は職場の中で顔見知りの男に尋ねた。

「渥美殿はいらっしゃいますか?」

「これは佐々木殿の妹御、してこちらは?」

にこやかに話す男に千鶴は無表情で返した。
良く見ないとわからなかったが、眉間にしわを寄せつつあった。
彼女の男嫌いが炸裂していた。

「親戚の姉です。ほら、姉上挨拶は?」

「……こんにちは」

男は助三郎の先輩だった。
妻子持ちにも関わらず、美人姉妹の登場で若干鼻の下が伸びている彼に、助三郎は鳥肌が立った。

「少しお待ちを」

彼が消えてしばらくすると、早苗がやってきた。
もちろん職場なので姿は男の格之進だったが。

「あれ、千鶴ちゃん何しにきた?」

「お弁当持って来ました。ほら、姉上。あれ?姉上、隠れてないで早く渡して!」

なぜか格之進が来た途端に隠れてしまった兄を千鶴は引っ張り出し、直接手渡しさせた。


その時、助三郎の鼓動は激しくなっていた。
猛烈に恥ずかしくなり、早苗の目が見られなくなった。
顔が熱くなり、胸が苦しくなった。
しかし、どうにか声を絞り出して言った。

「……ちゃんと食べてね」

「……あぁ。これ、美帆が作ったのか?」

助三郎と同じようにおどおどと聞く早苗の声にぽつりと返事を返した。

「……少しだけ」

しかし、千鶴は兄の援護に回ったつもりなのか、きっぱりと言い切った。

「いいえ、義兄上、全部姉上が作りました!」

「……そうか、ありがとな。ちゃんと食べるから」

ニコッと笑う格之進の笑顔に、助三郎はぽーっとなってしまった。

カッコいい……
ん?
いかん!

すぐさま眼をそらし、熱くなった顔を冷まそうと躍起になった。
しかし、冷める前に主がやってきた。
泣く子も黙る元不良、前の水戸藩藩主で中納言、現在隠居の徳川光圀だった。

「早苗、その子か?助三郎は?」

「あ、御老公。そうでございます」

すぐさま助三郎は平伏し主に詫びた。

「御老公さま、大変申し訳ありません、妻に代理をさせて挨拶にも伺わず。まことに…」

必死さ、真剣さが上手く表現できない未だ慣れない高い女の声で助三郎は必死に告げたが、光圀は一切聞いていなかった。

「まぁよい、上がりなさい」

「はい?」

「いいから、千鶴もじゃ。早く」


やたらに急かす光圀を怪訝に思ったが、主の言葉は絶対。
大人しくついて行った。
すると、奥の光圀の部屋、職場の人間はほとんど近寄らない部屋に助三郎、早苗、千鶴は通された。

なぜかホクホク顔の光圀は、いきなりこう言った。

「して、助三郎、お前さん暇じゃろう?」

「はい、まぁ…」

「どうじゃ、妹の千鶴と一緒にワシの傍で働かんか?」

「は!?」
作品名:千日紅 作家名:喜世