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千日紅

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《08》 二度目の祝言



「聞いてない!!!」

祝言当日、早苗が出してきた白無垢を前に助三郎は叫んでいた。

「祝言だから白無垢着ないと。せっかくだし」

「イヤ! 女じゃないのに、着たくない!」

助三郎が駄々をこねたが、それを無視して女たちはいそいそと準備をしながら、彼に話しかけていた。

「なんで? 可愛いと思うのに」

「姉上絶対に似合いますよ」

「そうです。着なさい。一度っきりなんですから」

四面楚歌だった。
妻はおろか、妹、母は言うことを聞かなかった。
下女まで期待のまなざしで見てきた。

残る味方はクロのみ。
助三郎の危機を感じた忠犬は吠えて女たちを困らせたが、一匹の犬にできることはなにもない。
すぐに黙らせられ、味方は居なくなった。


「絶対にイヤ!」

尚も猛烈に反発する助三郎を見かねた千鶴は、昨晩考えた奥の手を義姉に使わせることにした。

「義姉上、お願いします」

「わかった。でも、効くのかな?」

「必ず効きますから!」

女二人の怪しげな会話に助三郎は苛立った。

「なによ? なにやっても無駄だからね!」

て怒ってばかりの夫を静めるために早苗は男に変わり、美帆に向って寂しげにつぶやいた。

「……白無垢姿、俺に見せてくれないのか?」

「……うっ」

千鶴の思惑通り、助三郎は怯んだ。
そのすきに、手を取り微笑みながら口説きにかかった。

「……お前の綺麗な姿、見たいな」

「わかった。わかったから。その眼は、やめて…」

助三郎の顔は真っ赤になっていた。
まるで女の子の助三郎が面白くなった早苗は女に戻った。
とたんに、助三郎はまたも怒りだした。

「卑怯でしょ!」

「なんで?」

「いきなりあんな風に言いよって!」

「うれしかったんでしょ?もう一回やろうか?」

「イヤ!やらなくていい!」

強がって言ってはいたが、助三郎は口説かれている間舞い上がっていた。
男前の親友が自分だけを見つめている。
そのことに、普段感じられないうれしさと心地よさを感じていた。
しかし、早苗が現れたとたんに我に返り、ゾッとした。
義父にいわれ、異常ではないと頭ではわかっていたが、ゾッとした。



佐々木家での支度を終え橋野家へ行くと、助三郎は女たちに奥の部屋に連れ込まれた。
ここでも下女はやる気満々、ふくも優希枝も美佳も千鶴も総出で助三郎の着替えに取り掛かった。
光圀の傍にいるはずのお銀まで興味本位で飛び入り参加していた。
早苗も女たちに加わりたかったが、父と兄に止められた。

「おまえは…普段の裃で十分だ。風呂入って着換えろ。手ぶらだが持って来たのか?」

「いえ、変わり身するときに着物も変えられるので必要ありません」

「ほぅ、そこまで上達したか。すごいな。平太郎はまだだ」

まだということは、秘薬の解毒剤も未完成。
兄も、女に変われるまま。
期待を込めて早苗は平太郎に聞いた。

「兄上、まだ姉上になれますか?」

「あぁ、残念ながらな」

そこへ突然叫び声が聞こえてきた。


「イヤ! 離して! 触らないで!」

「まぁ、早苗より女らしい。もったいないわ」

「ここまでとは思いませんでした。隠すわけですね」

「やめて! 一人で着替える!」

どうやら、着物を引っぺがされ裸同然にされたらしい。
体型についてとやかく言う声が聞こえた。
女はどうともないが、男にとっては魅力的な話。

又兵衛はふくが怖いせいか、何も言わず、何も行動を起こさなかった。
しかし、若い平太郎は突然女に変わった。

「ちょっと、覗いて来ようかしら」

どうやら助三郎の着替えを見たいがために女に変わったようだ。
早苗はすぐさま兄の手を掴み引き留めた。

「姉上。ダメです! わたしの夫の裸を見たら、投げ飛ばしますよ」

「残念……せっかくいい機会だったのに」

そう言うと再び男に戻った。

「では、わたしも風呂に行ってきます。兄上、美帆を覗いたらただじゃおきませんからね」

念を押して、早苗は風呂場へ向かった。





「おう、格之進、変わったか」

風呂場で身体を清めた後、早苗は男に変わった。
裃姿に身形も変えてただけで普段と大して変わらない、いとも簡単な支度だった。

「どうですか?どこもおかしくはありませんか?」

「あぁ。問題ない。あとは美帆だけだな。やけに長いな…」

その時、今度は黄色い悲鳴が聞こえてきた。

「どうした!?何かあったか?」

興奮した様子で出てきた千鶴に早苗が聞くと、
こう答えが返ってきた。

「すごく可愛いんです美帆姉上。お化粧のし甲斐がありました」

「へぇ、見たいな」

「あら、義兄上ダメですよ。お嫁さんは夜の寝間でとくとご覧ください」

「良いだろ?正式な祝言じゃないんだから。床入りは無しだしな」

そんな話をしているところへ、女たちの囲いを破って白無垢姿の助三郎が飛び出してきた。

「早苗!助けて!もういや!脱ぐ!」

そんな慌てた助三郎とは対照的に、早苗は突っ立ったまま、生唾を飲み込んでいた。
あまりに目の前の「美帆」は美しく、可愛かった。
化粧なしの時の数倍上の可愛さだった。
あまりに見とれたせいか、早苗の口は勝手に美帆を褒めちぎっていた。その上手さに、助三郎は圧倒された。

「……似合うよ。美帆。この世で一番きれいだ」

「……う。…ありがとう」

「ちょっとの間、祝言の間だけ我慢しててくれないか?」

「……わかった。…ちょっとだけなら」

「ありがとな、美帆」

「……格さん」

見詰め合う二人の傍で、お銀が皆が思っていたことを代表して言ってのけた。

「怒ってばかりでも、好きな男に言われて見つめられたらもうこれ。
単純ねぇ、美帆ちゃん!」

「うるさい!美帆って言わないの!」

格之進以外の者の前では怒ってばかりの助三郎を皆は笑って眺めていた。



それからすぐに祝言に移った。
早苗と助三郎は以前とは逆の位置に座った。
夫が妻、妻が夫になっていた。
形通り儀式を済ませた後は、食事会に変わった。
早苗は横の助三郎に声をかけた。

「美帆、俺が夫で本当にいいのか?正式に届け出されるぞ」

「ここにいる人以外、誰もあたしの正体知らないから気にしない。それにね…」

「なんだ?」

「格さん好きだから気にしない」

にっこりと笑って助三郎にそう言われた早苗は、ドキッとした。

「お前、その好きは男としての好きなのか、友達として好きなのかどっちだ?」

「どっちも!格之進さま!」

そう言って、助三郎は自分から早苗にしがみついた。
今まで決してしなかったにもかかわらず、平気で抱きついてくる。
理由はひとつしかなかった。

助三郎をひきはがし、顔を覗くと、頬が赤らんでいた。

「酔ってるな。女になってもっと弱くなったか」

三々九度の酒だけで赤くなっていた。
さらに、食事中にも酒を飲んでいた助三郎はほろ酔い気分で浮かれていた。

「ねぇ。一緒に飲みましょう。ねぇ」

「飲まない!しっかりしろよ」

酔ったせいか本当に女になってしまったような助三郎が早苗には情けなかった。
つい怒ってしまうと、助三郎は悲しそうにうつむいた。

「怒られた……あたしが嫌い?」
作品名:千日紅 作家名:喜世