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千日紅

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「さぁ、朝ごはんよ!行きましょ!」

力まで弱くなってる……
まるで女だ。
刀持てないかもな……
はぁ……




朝っぱらから憂鬱な助三郎は、何も考えず、いつもの席についた。
家族が目を丸くしていることに気が付かなかった。

「……誰?」

「は?助三郎です。母上」

「え?兄上!?」

「助三郎!?」

母と、妹は盛大に驚いた。
すぐさま早苗は必死に謝った。

「申し訳ありませんわたしの不注意で女になってしまいました…」

「戻るんでしょうね?」

「おそらく……念の為、今日父に聞いてきます」

「そうね。橋野様に伺った方がいいわ」

心配そうな美佳だったが、妹の千鶴はむしろうれしそうだった。

「姉上には申し訳ありませんが。そのままでも別に構いませんよ」

「なんでかしら?千鶴」

娘の理不尽な言葉に美佳は不快を示した。

「戻れなくなったら格之進兄上を婿にとればいいから!」

「あら、そうね。あの人なら大丈夫」

なぜか美佳までも娘の問題発言に乗り気になっていた。
母と妹にとんでもないことを言われた助三郎はうろたえた。

「イヤです!格さんは友達です!私は元に戻ります!」

「怒っても、可愛いわねぇ」

「はい。フフフッ」

「みんなうるさい!」

朝から怒って、うろたえて、呆けて、忙しい助三郎だった。


食事を終えて、茶を飲みながら家族会議になった。
早苗が思いついたことを口に出した。

「この子の名前どうしましょう?」

「そのままで良いの!助三郎!」

「女の子なんだからダメよ!」

「母上……私は男です!」

「せっかくなんだから名前もらいなさい。女なんだから」

「ひどい……やっぱりこの家は男を貶める家か…」

常日頃、感じていた。
母親は自分に厳しい、嫁の早苗を可愛がってくれるのはいい。
しかし、自分には厳しすぎる。格之進も可愛がって、俺だけ……
元服して出仕したころからずっと厳しい。
少しは優しくしてほしい。
やっぱり、早苗だけが救いだ……今ちょっとおかしいが。

「そうです!義姉上、美帆はどうですか?」

「は?美帆?」

「可愛い!それで決まり!」

「はい。義姉上!」

「くっ…」

妻と妹、さらに母にまで女扱いされて、イライラが増した。
さらに、ずっとウキウキしている妹が気に触った。

「千鶴、なんでそんなに浮かれてる!?」

「姉上が二人も!最高です!」

「はぁ?」

「夢みたい!あぁ!」

「最悪」

異常に男嫌いの妹は、目を輝かせて喜んでいた。
本気で、女の方が好きなのではと心配に駆られた兄だった。



助三郎は早苗とともに橋野家に向かった。
又兵衛は暇そうにしていたらしく、娘の訪問を喜んだ。

「父上、夫が…」

「どうした?ん?その子は?」

「義父上。助三郎にございます」

「まさか…」

すぐ何事か察しがついたらしく、顔が青ざめた。

「父上のせいです!夫を返してください!」

父が送りつけてきた秘薬のせいで女に変わった。
適当でいい加減な父の責任。

「ちょっと待ってろ!古文書あさってくるから!」

怒ると、妻のふくに似て恐ろしい娘の顔を見た又兵衛は慌てた。
このまま放置しておけば、娘の雷が落ちるどころか、ふくに実家に帰られるに違いない。
そう思ったのか、大慌てで二人の前から立ち去った。

「……どうしよう。戻れないのかな?」

「……そんなこと言わないで。お願い。助三郎さまに会えないなんてイヤ!」

「早苗。ごめん。つまみ食いしたのがいけなかった」

気落ちする夫を早苗が慰めていると、又兵衛が帰ってきた。
年甲斐もなく走ったせいで息が上がっていた。

「……心配するな、じきに元の、助三郎に戻る。秘薬の効果が、消えるのを待て。いいな?」

「どれくらいですか?」

「分からん。食べた分によるらしい。一応、解毒剤の作り方発見したから作ってみるが、それまでにできるか成功するかは分からんぞ」

「そうですか。戻れなくなることはないんですね?」

「そうだ。お前の大事な夫がそのままなんて言語道断だからな」


安心した早苗は、隣の夫を見たが、彼も安心した様子で座っていた。

「だって美帆。良かったね!」

「あぁ、良かった。ん?美帆って呼ばないでよ!助三郎!」

「可愛い!やっぱり怒っても可愛い!」

「うるさい!」

女同士の喧嘩が始まったが、そこへ早苗の兄の平太郎が声を聞きつけてやってきた。

「おう早苗、誰だその子?可愛いな」

「……あ、義兄上、お久しぶりです」

「え?会ったこと、ありました?」

「兄上!鼻の下伸ばさない!これは助三郎さま!」

「は!?これが助三郎!?…それにしても、だいぶ、可愛いな。ハ、ハハッ…」


兄の眼が、女を見る目に変わっていた。
浮気癖はないはずだが、許し難い。

「ダメ!わたしの夫です!」

美帆を背後に匿った瞬間、ガシャンと湯のみが割れる音がした。

「……貴方、わたしが嫌いなんですか?」

早苗に茶を用意してきた平太郎の妻が、部屋の外で呆然と立ち尽くしていた。

「違う、優希枝!義理の弟なんかなんともない!」

「赤ちゃんがお腹にいるから、相手できないから、嫌われた……はぁ…」

彼女は泣き出してしまった。

「なぁ、泣かないでくれよ……何でもないからさ…」

「お暇をください……実家に帰らさせていただきます…」

「ちょっと!そんなこと言わないでくれよ…」

「いいえ、聞きません。家に帰る!」

優希枝は泣きながら、どこかへ立ち去ってしまった。

「かわいそうな義姉上……兄上最低!」

いい加減な兄に捨て台詞を残し、夫婦喧嘩の元凶となった助三郎を連れ出し、家に帰った。

元に戻れると知って、うれしいはずの助三郎は落ち込んでしまっていた。
なぜか理由を聞くと、変な返事が返ってきた。

「……義兄上が、変な眼で見てきた」

心底怯える夫が少し面白かった。
一度、男の格之進で彼を襲ったことがある。
本気で怖がられ、拒絶された。
そのことを思い出したに違いない。

「だって美帆可愛いもん」

「早苗…早く戻りたい…女はイヤ」

「可愛いのにもったいない」

「可愛いって言わない!」




それから、休みの間、今日か明日かと元の男に戻るのを待った。
せっかく夫婦水入らずでイチャつこうと思っていた二人だったが、女同士でできるわけがない。一緒の布団で寝たが、姉妹の添い寝状態。
欲求不満もいいとこだった。

しかし、そんな夫婦の問題を知ってか知らずか千鶴が参加した。
夜寝る前、布団の上でたわいもないおしゃべりしていると、彼女が部屋にやってきた。

「姉上、ご一緒してもよろしいですか?」

「どうしたの?」

「……お二人がとても楽しそうなので。一緒に寝たいなって」

「え?寝たいの?」

「はい!」

特に問題もないので、妹を招きいれた。
三人、本当の姉妹のようにふざけ合い、おしゃべりしているうちに、千鶴は疲れて寝てしまった。
心底うれしそうな彼女の寝顔を見ながら助三郎はふっと悲しくなった。

「……あたし、兄失格かな?この子に嫌われてるのかな?」

普段からイヤミばかり言ってくる。
頼ってもくれない。
作品名:千日紅 作家名:喜世