ギャグマンガ日和をいい話にしてみた
旅の途中、僕達は大阪に立ち寄った。
奥の細道の旅は終わっていたが、芭蕉の提案でまた出ることになった。
「ゲホッゴホッ」
「大丈夫ですか?芭蕉さん?」
「うん、だいじょ、げほっ」
最近芭蕉さんは咳がやけに多くなった。
もしかしたら病気かもしれない。
「宿、行きますよ」
「ええっ、もう?いいの?」
「いいですよ。
それとも行きたくないんですか?」
「ううん。すぐ行く!」
彼は子供みたいに叫んで行った。
宿に着くなり僕は彼にこう声をかけた。
「医者を呼んできますので、ここでしばらくじっとしていてください」
「松尾芭蕉さんは病気です」
来た医者からその一言が告げられた。
いきなりだった。
どんな病気かもわからないのでしばらくこの宿で療養する事となった。
川に突き落とされても、自分のチョップをいくらかましてもくたばらなかった芭蕉が死ぬわけない。
そう信じ込みたかった。
僕は、彼に医者から言われた事をそのまま伝えた。
彼は驚いた顔をしたが、すぐに前向きな芭蕉に戻った。
「そっかー。病気かー。いやー年取るとそこらへん弱くなるもんねー」
彼は今年で丁度五十歳だ。
「人ごとみたいに言わないでくださいよ芭蕉さん。
少しは自分の体を気遣ったらどうです?」
「大丈夫だよ。
私は死に掛けることはあっても死ぬことはない!
それが松尾芭蕉だ」
彼は自信たっぷりに言った。
「じゃあ早く直してくださいよ。
僕達はいつまでも大阪にとどまっていられるほど暇ではありませんから。
いや、いっそのこと置いてくのもいいな」
「えーひどいよ曽良君!」
いつもどおりの日々をできるだけ長く過ごしたかった。
僕達はしばらく宿にとどまった。
大阪見学はもちろんスランプ脱出するため、彼の練習に付き合った。
おかげで部屋が、半紙でいっぱいになって女将さんによく怒られた。
彼は練習のおかげか、徐々にいい俳句を作れるようになった。
しかし、彼の病状の悪化も目に見えてわかった。
彼が激しく咳き込んだ。
「大丈夫ですか!?」
「はっ!?嬉しい!曽良君が心配してくれる」
「そりゃ心配しますよ」
彼は満面の笑みを浮かべた。
よほど嬉しかったのだろう。
彼はいくら病状が悪化してもこの笑顔を絶やす事はなかった。
「ねえ、曽良君」
「なんですか?」
「この病気治ったら、九州の方に行こうね」
「わかりましたよ」
僕は微笑んで答えた。
作品名:ギャグマンガ日和をいい話にしてみた 作家名:蔦野海夜