金銀花
「それは、その…… うつるといけないので」
「そうですか…… 残念。……ところで貴方はどなた? もしかしたら、千鶴の好い人?」」
予期していた質問が投げかけられた。
しかし、この答えは準備してあった。
「親戚の者です」
「申し訳ありません。そうですよね? あの子男の人大嫌いだから。
……そういえば、佐々木さまに似てる気もします」
「……そうですか?」
これ以上何か質問されて、墓穴を掘りたくなかった千鶴は香代に別れを告げ帰宅しようと試みた。
しかし、運悪く仕事帰りの兄二人がやってきた。
助三郎が真っ先に見つけ、大きな声で本当の名前を呼んでしまった。
「千鶴! 早苗から出歩くなって言われたろ? クロまで連れ出して何してた?」
しかも、その隣の早苗まで千鶴の近くにいる香代に気付かず千鶴に声をかけた。
「まあいい。千鶴、一緒に帰ろう。兄貴が美味いものおごってくれるって」
「お前には奢らない。早苗と千鶴になら奢る」
この言葉に、香代は顔色を変えた。
不安そうな表情を浮かべ、千鶴を見つめた。
「……貴方、千鶴なの?」
「いえ、その……」
言葉を濁らせる千鶴に、香代はきつく一言言った。
「はっきり言って」
気が千鶴のように強くなく、どちらかといえば弱い香代は、滅多にそんなことはしなかった。
そんな香代に驚いた千鶴は本当のことを言ってしまった。
「……千鶴です。男になっちゃった。ごめん」
「うそ!?……はぁ」
突然香代の身体が崩れ落ちた。
貧血で倒れる香代を何度か見たことがあった千鶴だったが、さすがに言葉を聞いただけで倒れる姿には驚いた。
すぐさま、頭を打たないよう身体を支えて声をかけた。
「香代、大丈夫? おい、香代!?」
彼女は気絶していた。