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Fate/Zero ~MAKAISENKI~

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「混戦」







「異世界の英霊!?」

妙な機械(?)を取り出し桜の治療の準備をしているシンギから事情を聞いた雁夜の第一声がそれだった。
もちろん驚愕すべき事はまだあった。
魔戒騎士と魔獣ホラー長きに渡り戦い続けているその存在に。

「こ、根拠はあるのか!?」

雁夜は何故ここが彼のいた世界と違うのか、その疑問を問いかけた。

「…まず前提として魔術が存在しない」

「…?そりゃそうだろ魔術は隠蔽するものなんだから」

そうだ、いくら彼が魔戒騎士という裏の存在でも、魔術は普段誰にも知られないように隠蔽されている。
それも徹底的にだ。
魔戒騎士もその存在を隠してはいるが魔術師ほどじゃない。
魔術師は記憶消去か殺すことでその存在を隠蔽するが、魔戒騎士は記憶処置もしくは放置だ。
それぐらいの違いがあるほど隠蔽には徹底している。
…最も、守る存在の人間を知ったからといって殺してしまえば本末転倒だが。

「さっき陰我について話しただろう?魔術のような陰我が溜まり易い格好の獲物にホラーが食付かないわけないだろう。そうなれば自然と魔戒騎士にも魔術の存在が知れ渡る」

"陰我"それは人間の邪心から生じる、この世のさまざまな闇のこと。
そしてホラーとはこの陰我の宿ったオブジェをゲートとして人間界に現れ人間を喰らう。

成程、魔術は根源にたどり着くためならば人間を実験に使うときもある。
これは陰我が溜まって当然だ。
現に臓硯がそのような事をやっていたのだから。

「…たしかに、あの爺がホラーとやらに憑依されている様子はなかったな」

元から、化け物のようなものだし…
そう付け加えた雁夜に対しシンギは再び口を開く。

「話を続けるぞ、第二に俺の世界には抑止力がない。
魔界で大量のホラーが溢れ出す500年に1度の大災厄というのがあるんだが、その時期が来ると腕利きの魔戒騎士が駆り出され、収束する。
一応、成功してはいるが、それでもやはり大量のホラーが現世に出てきてしまう。今期はそんなことはなかったようだが…」

"抑止力"カウンターガーディアンともよばれ、集合無意識によって作られた、世界の安全装置。
「アラヤ」と、「ガイア」の二つがあり、「アラヤ」は霊長を「ガイア」は世界を守るためにある。
聖杯戦争はこの抑止力を発生させないための儀式でもあるのだ。

「霊長の守護者…だったか?大災厄のときにそんなものが現れたという話は聞いたことがない。この2つが俺が異世界から来たと断じられる理由だ」

「…分かった。お前が異世界から来たのは認めるよ」

ここまで言われれば認めざるを得なかった。
他にも英霊のあり方が違うなどという理由もあるのだが、雁夜が納得すれば十分なのか、それ以上は話さなかった。
ちなみに何故彼がここまで知っているのかというと、聖杯からもたらされた知識のせいである。

「話はここまでだ。何か質問はあるか?」

「そういえば、腕利きの魔戒騎士は称号を与えられるといったな。お前の称号は何なんだ?」

そう聞くと…止まった。シンギの動きが。
何かまずいことでも聞いたかな…と雁夜は不安になるが…

「俺は暗黒騎士"虚(ウツロ)"他の魔戒騎士にとって、裏切り者同然の称号さ」

フッと自嘲気味に言ったシンギの顔はどこか悲しみを表していた。



―――――――――――――――――

あれから5日経った。
桜の治療は終わった。それで今までの事に耐え切れなくなったのかシンギと雁夜に泣き付いて、シンギが慌てるというハプニングがあったが、未だ聖杯戦争に進展はなかった。
いや、一つだけ…

「アサシンの死は狂言だって言うのか?」

そう、アサシンが死んだのだ。
遠坂邸に進入しようとしたところを黄金のサーヴァントによって無数の剣で射殺されたのだ。

「ああ、あまりにもあっさりし過ぎだ。アサシンのマスターは捨て駒の様に使っていたし、何よりサーヴァントの登場のタイミングがよすぎる。アサシンの宝具かスキルかいずれにせよアサシンは生きている可能性が高い。
…恐らくアサシンのマスターと遠坂はグルだと考えたほうがいいだろうな」

「…時臣の考えそうなことだ」


「何はともあれ、次の相手の出方を待つしか…」

シンギの言葉を遮る様に大きな魔力の感覚が二人を襲った。

「…この気配」

「十中八九サーヴァントだろうな」

「行くのか?」

「ああ、これだけ挑発されたら黙っているわけにもいかないだろう」

そう言うと、スッと立ち上がると玄関へと向かっていく。

「…シンギ」

「何だ」

ふと、雁夜がシンギを呼び止めた。

「死ぬなよ」

「当たり前だ」

そういい残し、シンギは今度こそ戦場へ駆けた。


―――――――――
―――――――
―――――

街の倉庫街
人通りが無くなったこの場所は魔術師達にとって絶好の戦いの場と言えよう。
そして、まさにその戦いを始めようとしている人影が3つ。
一つは違う長さの2本の槍を持つ端正な顔立ちの男。恐らくはサーヴァントのクラスの一つ、最速といわれるランサーだろう。
一つは金髪の少女と呼べる外見のサーヴァント。だが、その手にいまだ武器を持っていないため、クラスが分からない。
最後の一つは雪国にいるような女性でその美しい容貌と白い髪が目に付く。金髪の少女が守るために前に出て盾になっているあたりマスターなのだろう。

そして、ランサーらしき男から魔力があふれ出ている。
魔力を出してサーヴァントを誘っていたのが彼なのは一目瞭然だった。

「よくぞ来た。今日1日、この街を練り歩いて過ごしたものの、どいつもこいつも穴熊を決め込む腰抜けばかり。俺の誘いに応じた猛者はお前だけだ」

ふと、ランサーが少々嬉しそうに口を開いた。
恐らく、誰も誘いに乗ってこないのに、落胆していたのだろう。

「その清澄な闘気…セイバーとお見受けしたが」

「その通り。そういうお前はランサーに相違ないな」

「いかにも…ふん、これより死合おうという相手と、尋常に名乗りを交わすこともままならぬとは、興の乗らぬ縛りがあったものだ」

どうやら少女の方はセイバーであったらしい。
名乗り云々に関してはセイバーも同意なのか頷いていた。

「是非もあるまい。元より我等自身の栄誉を競う戦いではない。お前とて、この時代の主のためにその槍を捧げたのであろう?」

「ふむ、間違いない」

「魅惑の魔術?既婚の女性に向かって、ずいぶん非礼ね。槍兵」

ふとマスターらしき女性が少々怒り気味に口を開いた。
彼女の名はアイリスフィール・フォン・アインツベルン
聖杯戦争の基盤を作った御三家の一つであるアインツベルン家の者である。
彼女の発言に対し、ランサーは苦笑気味に答えた。

「悪いが、持って生まれた呪いのような物でな、こればっかりは如何ともしがたい。俺の出生か、もしくは女に生まれた自分を呪ってくれ」

魅惑の魔貌ともいうべきだろうか、その手の物がランサーの顔から出ているのだ。
作品名:Fate/Zero ~MAKAISENKI~ 作家名:魔戒