Fate/Zero ~MAKAISENKI~
そして遂にその全容が露になった。
全身を漆黒の鎧で包み、狼の様な兜を被った騎士。
一振りの剣を携え、風になびく二股に分かれたマントと兜の赤い眼が異質さを際立たせている。
禍々しい気配を振りまき、見るもの全てを萎縮させる。
バーサーカー、暗黒騎士"虚"が戦場に降り立ったのだ。
「バーサーカー!?」
思わずセイバーが叫んだ。
その騎士然とした姿からはとてもバーサーカーとは思えないが、残るクラスからいってバーサーカーしか該当しない。
「なあ、征服王。あいつには誘いを掛けんのか?」
「誘おうにもなぁ、ありゃあのっけから交渉の余地が無さそうだわなぁ」
あれが、バーサーカーだとすれば当然理性など存在しない。
さしものライダーも狂戦士は御免被るらしい。
「で、坊主よ。サーヴァントとしちゃどの程度のモンだ?ありゃ」
「分からない。まるっきり、分からない」
ライダーの問いにウェイバーは驚愕の表情を浮かべながら首を振って答えた。
「何だぁ?貴様とてマスターの端くれであろうが。得手だの不得手だの、色々と観えるものなんだろ、ああ?」
ライダーの言うとおり聖杯戦争に参加するマスターならば、サーヴァントの能力の値が分かるものなのだ。
「見えないんだよ、あの黒いヤツ、間違いなくサーヴァントなのに……ステータスも何も全然読めない!まるで弾かれてる様に…」
「ふむ」
そうウェイバーの言うとおり、解析の魔術は虚に届いていなかった。
とてつもない力を秘めた鎧によって全て弾かれているのだ。
「どうやら、あれもまた厄介な敵みたいね」
「あの英霊は魔術を弾くような力を持っているようです。それだけではない四人を相手に睨み合いとなっては、もう迂闊には動けません」
セイバーの言うとおり四人もの強者がいては、動いた瞬間全員に狙われる可能性がある。
このまま膠着状態が続くかと思われたが…
「誰の許しを得て我(オレ)を見ている?狂犬めが」
ふと、目をやるとバーサーカー、虚がアーチャーを見上げていた。
アーチャーはそれが気に食わなかったらしく、標準をライダーから虚へと変える。
しかし、"狂犬"程似合う言葉も有るまい。
バーサーカーであるに加え、狼の顔をしているのだから
「せめて、散り様で我(オレ)を興じさせよ。雑種」
そうこうしてる内にアーチャーの武器が射出された。
そして…
虚に着弾し、爆音が響き渡った。
誰もが息を呑む。
「奴め、本当にバーサーカーか?」
ランサーが驚愕の声を上げた。
「狂化して、理性を無くしているにしては、えらく芸達者なやつよのぉ」
ライダーが感心したようにつぶやいている。
「え?」
ウェイバーには分からなかったようだ。
当然だ、あの一瞬を見分けられるサーヴァントのほうが異常なのだ。
そういう意味では正しくウェイバーが普通であると言える。
「何だ分からんかったのか?」
「あの黒いのは先に飛んできた剣は自分に当たらぬのを見抜いて居ったのだ。そして、一本めの剣はそのまま見逃し、次に飛んできた槍はその手に持つ剣で切り上げ、そして叩き落したのだ。あれほどの剣技と剣速はそう、お目にかかれるものではないぞ」
煙が晴れたところを見るとライダーの言うとおり、剣は虚のすぐ背後に突き刺さっており、槍は目の前の地面に埋まっている。
虚は構えを解くと悠然とアーチャーに向かって歩みだした。
その際、埋まった槍を踏みつけて。
「その汚らわしい足で我が宝物を踏みつけるとは…そこまで死に急ぐか、犬!!」
アーチャーの顔が怒りで染まり、その背後から数多の宝具が姿を現す。
剣、槍、斧等、様々な形状の宝具がその切っ先を虚へと向ける。
「そんな、馬鹿な!!」
ウェイバーが叫び声を上げた。
そうなるのも当然だ。確かに英霊の宝具は一つとは限らない。
だがそれでも、アーチャーの持つ宝具は数が多すぎだ。
しかも、その宝具は湯水のように投げ出されている。
となると、宝具はまだまだ数多く存在するのだろう。
「その剣技で持って、どこまで凌ぎきれるか……さぁ、見せてみよ!」
その言葉と共に宝具が次々と射出されていく。
「なっ!」
いったい誰がその声を上げたであろうか、いかな剣技を持っていようと、あの数を凌ぎきれる事は無いと誰もが思っていた。
だが、それは思い違いだった。
何と、虚は剣で持ってその軍を凌ぎきるのではなく、迫りくる宝具を踏みつけてアーチャーに向かって駆けているのだ。
一歩間違えば、その鋭い刃で足が斬られるだろうに、一時の躊躇いも無く、刃の無い部分を踏みつけているのだ。
一つ一つ宝具を足場にして確実にアーチャーへと迫る。
そして遂に、アーチャーの目前に辿り着いた時、手に持った剣が振るわれた。
もちろん、黙ってアーチャーがやられる筈も無く、跳び越える事でその攻撃を回避した。
アーチャーと虚が同時に着地し、続いてアーチャーの代わりに斬られた街燈の残骸が軽い音を立てて地面に激突した。
「痴れ者が……天に仰ぎ見るべきこの我(オレ)を、同じ大地に立たせるか!!その不敬は万死に値する。そこの雑種よ、もはや肉片ひとつも残さぬぞ!!」
宝具を踏まれ、自分を大地に立たせた。
まはやアーチャーの怒りは頂点に達していた。
その眼に怒りの炎を滾らせ、先程の倍の宝具を出現させた。
――――――もはや生かす価値は無い。
アーチャーの頭にはその思いしか無く、不敬を働いた愚か者をこの手で処刑すべく宝具の切っ先をバーサーカーに向けるが…
「貴様ごときの諫言で、王たる我の怒りを鎮めろと?大きく出たな、時臣」
なにやら、宙に向かって呟きだした。
どうやらアーチャーのマスター、遠坂時臣が撤退を命じたようだ。
「命拾いをしたな、狂犬。雑種ども、次までに有象無象を間引いておけ。我(オレ)と見まみえるのは真の英雄のみで良い」
不服そうな表情のまま、背後に構えられていた宝具と、射出された宝具と共にアーチャーはその姿を消した。
「ふむ。どうやらアレのマスターは、アーチャー自身ほど剛毅な質タチではなかったようだな」
「同感だな。しかし、アーチャーの奴も器の狭い奴だ。たったあれだけの事に怒りだすとは」
聞き覚えの無い声がした。
皆が一斉に声のしたほうへ振り向いた。
しかし、そこにはバーサーカーしかいない。
「まさか、バーサーカーが…?いやいや、バーサーカーがしゃべるわけないし…」
「何だ?俺に何か用か?」
空気が凍った。
今度は聞き間違えではなかった。
そう、間違えなく…
「バ、バババ……!!」
「バーサーカーがしゃべった!!」
混乱してるウェイバーの答えを代弁するかのようにセイバーが吼えた。
2人だけではない、この場にいる誰もが声には出してはいないものの驚愕の表情を浮かべていた。
「何だ?バーサーカーにしゃべってはいけない決まりでもあったのか?」
その様子を見て、フッと笑いながら虚が答えた。
作品名:Fate/Zero ~MAKAISENKI~ 作家名:魔戒