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Muv-Luv Alternative~二人の傭兵~

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「ここがライナさんの部屋。その隣がシルビアさんの部屋です。横浜基地に着くまでの臨時の部屋ですが」

 そう言えばここはまだ戦艦の中だったな。

「そうだろうな。横浜基地に着くまで俺達はどうすればいいんだ?」

「何も言われてないので、休んでいてもいいと思います」

「それは助かるな。案内有難う」

 お礼の言葉を言うと社は俺達二人に対しお辞儀をしてからその場を後にした。

 その場に残された俺とシルビア。

 互いに何を言うわけでもなく、俺も疲れているのでそのまま部屋の中に入ろうとし、ドアノブを引き扉を開く。中の部屋にはこれといって家具と呼べる物はなく、机と椅子。そして休むためのベッドのみ。

 前の世界でもこんな部屋で過ごしていた為に文句はない。寧ろベッドがあるだけで俺としては助かるもんだ。

 部屋の中を確認してから部屋の中に足を踏み入れる。部屋の広さは狭すぎず、広すぎずといった所。

 そのまま扉を締めようとしたら扉が締まることはなく、後ろを確認してみるとシルビアが扉を抑えていた事に気がついた。

「どうした?」

「少しだけ」

「…そうか」

 短いやり取りを済ますとシルビアを部屋の中に入れる。一度訳もなく廊下の方を見渡してから誰もいないことを確認し、部屋の扉を閉める。

 シルビアが俺の部屋の中に入る、と言う事事態は前の世界でそう珍しい事ではなかった。作戦前のブリーフィングなどで俺の部屋に二人で集まることもあれば、只の談笑の為に集まった事もあった。

 しかし今は前と現状が違う。

 俺もシルビアも表には出してないが、違う世界に来てしまった、と言う事に大してとてつもなく大きな不安を感じている。いうなれば心細いのだ。

 幾ら傭兵として無情な作戦を行なっていた、と言っても俺は人間だ。悲しい事があれば泣くし、腹立たしい事があれば怒る。そして今、俺の知っている人間はシルビア只一人。俺の知っている世界ではない。

 そういった事柄が俺の神経を削り、そして俺自信何かに甘えたいと言う感情が少なからずあると言う事にも気づいている。

 そんな心情の中、只一人頼れる存在であるシルビアが同じ一つの空間にいる、と言う事だけで何故か邪な感情を抱いてしまう。

「どうしたのですか?」

「いや、何でもない」

 しかし、此処で弱りきった心を外に出す訳にはいかない。

 シルビアとて俺と同じ気持ちの筈なのだ。長年パートナーをやってきていた俺には分かる。

 そんなシルビアの前で、弱気を見せる訳にはいかないんだ。俺と同じ只一人の頼れる人間も弱気、だなんてなればより不安を煽ぐ事になってしまう。それだけは、それだけは避けないといけない。

「そんなに飾らなくてもいんですよ?」

 シルビアの核心をついた言葉に心臓が止まったかのような錯覚に陥る。

 此奴にだけは嘘を付けた事がないんだっけな…。

「…不安なのはお互い様だ。だったら片方が気丈に振舞うしかないだろ?」

 シルビアが座っているベッドの隣に俺も腰を降ろす。

 互いに顔を合わせようとはせず、只そのまま無言の時間が過ぎてゆく。

 どのくらいそのまま時間が過ぎたのだろうか。体感時間から言えば数時間だが、実際の所は数秒なのだろう。

 只この部屋を満たしている雰囲気がたった数秒の空白をも、数時間の経過、といった錯覚を俺に与えてくる。そこまで俺の心身は弱っていると言う事だ。

「ライナ。どちらかが気丈に振舞う必要なんてありませんよ。私達は互いに支えあえばいいじゃないですか。あの時そう約束しましたよね?」

「…」

 約束。その言葉に前の世界での情景が頭の中に思い浮かぶ。

 あの日、俺の全てが失われたあの日。そしてシルビアも全てを失ったあの日。互いに交えた一つの約束。

「そうだったな…」

「そうです。だから貴方が気丈に振舞う必要なんてありません。私も気丈になんて振舞う事はしません。だから貴方には弱気を見せると思います」

 シルビアのこんな弱々しい声を聞いたのは本当にいつぶりだろうか。驚きを隠せずにシルビアの方にゆっくりと視線を向ける。

 そこで俺の視界に写ったのは、本当に今にも消えてしまいそうな程の儚さを纏ったシルビアの姿。あの日約束を交えた時と同じ光景。

「その時は貴方が…ライナが私を支えてください。ライナが弱っている時は私が貴方を支えます」

 シルビアの言葉を聞いた瞬間、気付いたら俺は手が動いていた。

 少しだけ離れていたシルビアの肩を掴み、自分の方にそっと寄せつけた。シルビアの頭が俺の肩に触れるように。シルビアが何処かに消えてしまわぬように、自分の側に引き寄せた。

「当たり前だろう。俺達はそうして生きてきたんだ。これからもそうして生きていくさ」

「…はい」

 無理矢理引き寄せられたシルビアは嫌がる事をせず、そのまま俺に体をあずける形で何も言わなくなってしまう。

「シルビア?」

 そのまま本当に何も言わなくなってしまったシルビアが気になり、そっと俯いている顔をのぞき込んで見れば、小さな寝息を立てながら寝ていた。

 余りにも無防備なその姿に思わず小さく笑ってしまい。そのままシルビアをベッドの上に寝かしつけた。

「こいつのこんな言葉を聞いたのはあの時以来だな…」

 隣で寝ているシルビアの白く綺麗な髪に指を通しながら、誰に聴かせる訳でもなく、そう呟く。

 瞼の裏に浮かぶのは炎に包まれた基地。俺の腕に包まれているのは、かつて守ろうと心に決めた只一人の肉親の…屍。

(ッ!)

 ふとよみがえった当時の光景を消し去るかのように頭を振り払う。

 あの光景を思い出す事はなかったが…やはり相当まいってるんだろうな。

「俺も寝よう…」

 隣にはシルビアがいるが、隣で寝たところで何も言ってこないだろう。

 そう思った俺は疲れきった体をベッドの上にあずけ、そのまま瞼を閉じた。次の瞬間には襲ってくる睡魔に抗う事はせず、そのまま意識を手放していった。

作品名:Muv-Luv Alternative~二人の傭兵~ 作家名:灰音