Muv-Luv Alternative~二人の傭兵~
Episode4.横浜基地
「ここが横浜基地か」
韓国領江原道鉄原郡奪還作戦も無事成功に終わり、今こうして俺達ヴァルキリー中隊は誰一人かける事なく横浜基地に帰還する事が出来た。
横浜基地に到着するなり巻き起こる喜びの歓声。
皆が涙し俺達ヴァルキリー中隊の帰還を歓迎し、そして作戦の成功を喜ぶ。
その圧倒的な光景に俺は思わず足を後ろに一歩引いてしまう。
HIVE攻略、ひいてはBETAの殲滅成功が此処まで人を歓喜させるものだと実感出来ていなかった俺とシルビアはその光景に唖然とするしかないのだ。
その中で悠然とした態度で群集の中を進んでゆくヴァルキリー中隊と香月、そして社。
ここ横浜基地でヴァルキリー中隊に対する皆の期待は以上な程に高い、と言う事も理解出来た。
そんな光景に後ずさりしつつも俺とシルビアはヴァルキリー中隊の皆の後についてゆく。
その道中で晒される皆の興味ある視線。俺達の情報は流れていない筈だが、恐らくはヴァルキリー中隊と共にいる、と言う事に皆の興味を集めてしまっているのだろう。
「貴方たち二人はこのまま私についてきてちょうだい」
ヴァルキリー中隊とは一旦別れ、俺達二人はそのまま香月の後について行く。
横浜基地に到着してから分かった事なのだが、此処横浜基地は地下にある。外の状況は悲惨たるものだったが、残念ながらその理由は俺達二人には分からない。
まるで戦場の後だったかのように滑走路の荒れ果て、シェルターであろう場所も吹き飛んでいる始末。
薄々は感じているが、俺の感じた通りに此処横浜基地で一度BETAとの争いがあったのだろうと予想する。
「入りなさい」
そんな横浜基地の中を歩くこと数分。
ようやくついたであろう香月の部屋の中に俺とシルビアを足を踏み入れる。
中に入ってみれば、何かの資料であろう紙が至るところに散らばっており、片付けを行なっていない事が目に見て分かった。
その事に関して本人に触れるつもりはないが、少しは綺麗にしておいてもらいたいものだ。と心の中で思ってしまった。
「それじゃあ、早速本題に入らせてもらうけど。貴方たちのあの機体。いずれ動かなくなるわね」
「な!?」
香月の口から出た言葉に声を思わず声を上げてしまう。
それもそうだろう。あのBETAの群集で生き延びる事が出来たのは二機のACのおかげ。そのACが動かなくなるならば俺達二人はヴァルキリー中隊の皆が乗っていたあの機体に乗ることになる。
「何故だ?」
焦る気持ちを抑えつつも香月に尋ねる。
「貴方たちもわかってるんじゃないの?あの機体の動力源であるエネルギーはこの世界にないものよ。つまりあの機体を動かせるのはあと少し。その変わりになるエネルギーを見つける事が出来ないならばあの機体はいずれ動かなくなる」
予想的中…と言った所だろうか。ACの動力源、つまりはコジマと言う事だろう。
コジマ粒子の存在がこの世界で見つかっていないならば香月の言うとおりACはいずれ動かなくなってしまう。
「…変わりになるエネルギーはないのか?」
「あの機動性を生み出すためには膨大なエネルギーが必要。その膨大なエネルギーを持つ変わりになるエネルギーは確かに存在する。でもそのエネルギーがACの動力に流用出来るかも分からなければ、一番ネックな事にそのエネルギーには限りがあるのよ」
変わりになるエネルギーは一先存在する。という言葉に思わずほっとため息を零す。まだ変わりになるとは分かった訳ではないが、その可能性があると言うだけでも助かる。
しかしそのエネルギーがACに流用出来た所で香月の言ったエネルギーの限度、と言うのが確かにネックになってしまう。
ACのあの機動性を生むためにはかなりのエネルギーを食うのだろう。そちらの分野に関しては俺とシルビアも知識が乏しい為に深くは分からないが。
「そのエネルギーと言うのは?」
「G元素。つまりBETA由来の人類未発見元素の事ね。人類未発見元素の為に貴方たちの機体に流用出来る可能性もある。その逆も然りだけどね」
「どうにか出来ないのか…?」
「此方としてはどうにかするつもりよ。あんな高性能な機体、そしてその機体を操れる人間を持ち腐れする訳にはいかない。ってことで貴方たちに確認しておきたい事が一つ。G元素の貴方たちの機体に流用するにあたって機体の構造を根本的に改造する事になると思うわ。下手したら今より低性能に、逆に高性能にもなりうる。使える武装も恐らくは変わるかもしれない。それでもいいわよね?」
今ままで共に戦い抜いてきた機体を改造させられる、ということには多少の拒否感はある。だがそうでもしなければ俺達二人が生きていく事は難しくなるだろう。
そして香月の言うとおりACを乗りこなせるのは俺達二人だけだ。あんな低機動性の機体に乗っていた人間がACに乗れば間違いなく操縦する事なんで出来ない。多重のGが掛かり下手したら死ぬだろう。
その事はシルビアも理解出来ているだろう。そうなれば俺達のとる返事は一つ。
「あなたに任せる」
「ふふ、任せないさい。まぁ武装の方はなるべく前のを流用するつもりよ。と言うかあの威力のある武器は普及させたい所だから武装に関してのデータは公開するつもり。構わないわよね?」
「あぁ、武装に関してはいいだろう」
ACの構造を公開した所でそれが意味のなすものだとは思わないが。先程も言ったとおりACの機動性に対応出来るのは俺達二人だけだからな。
「それじゃあ機体の確認がとれた所で貴方たちの役目を言うわね」
「…」
「貴方たち二人もわかってとは思うけど、ヴァルキリー中隊に所属してもらうわ。まぁポジションはないけどね。あの機動性を生かした上で部隊全体をバックアップしなさい」
また難しい事を簡単に言ってくれるな。俺達二人だけで12機構成の部隊全体のバックアップだと?…決して不可能ではないが、かなり高度な技術が求められるだろう。
「出来ない、だなんて言わないわよね?」
「当然だ」
香月の挑発的な態度に此方も気丈な態度で出てしまう。と言っても俺達二人を最大限にかせるポジションはそんなものしかないだろう。自分達二人の力がいかに逸脱したものかはしっかりと理解している。
一つのポジションに留まるよりは機動性を生かして全体をバックアップした方がいい。と言うのは理解しているが、やはり不安にはなってしまう。
「結構。そしてあともう一つ。貴方たちには優先的にG元素の確保を行なってもらう」
「確保?」
「後で社から色々教えさせるけど、つまりヴァルキリー中隊、もしくは貴方たち二機でのHIVE攻略よ」
と言われてもHIVE攻略の実感が湧かないためにどう反応していいか困る。
只一つ理解出来るのはあの群集の中に二機で突っ込んでゆく、と言う事だろう。
「HIVE攻略に関してはまだエネルギーの流用が出来てないから何とも言えないけど、貴方たち二人なら大丈夫よ」
その根拠は何処から出てくるのだろうか。まぁこの世界で指揮官を務めている人間が言うのならばそうなのだろう…。
作品名:Muv-Luv Alternative~二人の傭兵~ 作家名:灰音