Muv-Luv Alternative~二人の傭兵~
「こっちだよー!」
宗像の言っていたPXとやらについた途端に聞き覚えのある声が耳を捉える。声のする方を見てみればハンガーで別れたヴァルキリー中隊全員が席に座っていた。
「まぁ、あっちは放っておいて、まずはここの説明をしなきゃいけないね」
茜の呼び掛けを無視して宗像は俺達の方に振り返る。
周りを見渡してみれば沢山の軍人が席に座って飯を食っている。俺達が見たことのある食物もあれば見たことのない食物もある。と言って前の世界で本の中だけでなら見たことはあるが。
俺達のいた世界はコジマ汚染によって動物の住める環境は全て破壊されてしまった、と言っても過言ではない。そんな環境の中で動物の肉、などと言った食料はないに等しかった。しかしここには本の中でしか見たことのない魚や肉などといった食料がある事が目に見てわかる。
他の軍人が飯を食っている姿を見るだけで腹の虫が鳴きそうになっているのが自分でもよく分かる。
「さっきも言ったけどここはPX。簡単に言えば食堂だな。食事したい時は京塚のおばちゃんに言えばいいよ。メニューもカウンターの方にあるから」
宗像の指さした方に目を向けてみれば白い白衣を来たたくましい女性が此方を見ていた。
俺とシルビアの事を目を細め見ているようだが、何か分かったかのような表情をし、俺達の方へと歩いてきた。
「あんた達がこの子の新しい仲間かい!?京塚 志津江って言うよ!これからもよろしく頼むよ!」
大きな声と共に俺の背中をバシバシ叩く京塚。何を宜しく頼むのかは知らないが、もう少し背中を叩く力を弱めて欲しいものだ。見た目通りの豪腕と言えばいいのか…言ったら本気で殴られそうだが。
「ライナだ。此方こそ宜しく頼む」
「シルビアです。宜しくお願いします」
「そんなにかしこまらなくてもいいんだよ!今日はこの子の頼みで特別に豪華な昼食を用意してあげてるから、たくさん食べなよ!?」
この子、とは宗像の事だろう。
宗像の方を見れば恥ずかしそうに頬を赤く染め、俺達の方から視線を逸らしている。少しばかり硬い人間と思っていたが…それは俺の勘違いだったようだ。
「飲み物は何にする?」
「私は水で構いません」
「俺もそれでいい」
まず此処にどういった飲み物があるのかさえ把握していないんだ、まぁ飲み物の種類があっても水で構わないが。
そんな俺達の反応を見て京塚は何か言いたそうな目で此方を見てくるが、他の軍人からの呼び掛けがありそちらの方に行ってしまった。
大方、そんなに畏まらなくてもいい。などと言いたかったのだろう。
もしそう言われても俺とシルビアの素はこれであり、此方としては畏まっているつもりもないのだが。よく他人にそう言われてきたので予め予想出来てしまう。
「ほら、お二人さん。水だよ」
カウンターに置かれた二つのコップを俺が持ってから京塚に頭を下げる。
「そんなに畏まらなくてもいいんだよ!」
案の定言われた言葉に予め用意しておいた言葉を返す。
「畏まってなんかいないさ」
捨て台詞気味に吐いた言葉に京塚は何も言い返そうとはしてこず、俺もそのまま皆の座っている方へと踵を向けた。
手にもった水の入ったコップの片方をシルビアの前に置いてから、俺もシルビアの隣の席に腰を降ろす。
先程はチラッと此方を見ただけだったので気付かなかったが、既にテーブルに上には数多くの料理が並べられていた。
テーブルの上には俺の見たことのない料理が多数並んでおり、外見は平然を装っているが、内心は結構興奮気味だ。
シルビアの方を覗いてみれば、シルビアも俺動揺、料理に目を奪われている事が分かる。
「それじゃあ早速。新しくヴァルキリー中隊に入ったきた二人に、乾杯!」
宗像の言葉と同時に皆も持っていたコップを上に持ち上げた。
皆の行動に釣られるかのように俺とシルビアも水の入っていたコップを互いに上に持ち上げる。
この行動が何の意味を成すのかはイマイチ分からなかったが、取り敢えず歓迎会のようなものは始まったのだろう。
そんな考えを裏付けるかのように皆が料理に手を伸ばし始めている。
「二人はどういう関係なんだ?」
目の前に広がる美味しそうな料理に手を伸ばそうとした瞬間、宗像がそう俺達に問いかけてきた。
一旦伸ばした手を引っ込め、宗像の方に視線を向ける。横目で周りを見てみれば他のヴァルキリー中隊の皆も俺の方を見ている。
幾ら戦場に出ていようが女は女。こう言う話は好きなんだろう。
正千里と沙耶に限っては二人黙々と料理を食べている。どちらも喋らない同士で気が楽なのかもしれないな。
「んで、どうなんや?」
何かの肉らしきものを口に加えながら愛がテーブルから身を乗り出してくる。マナーがなってない。
「どうって言われてもな…」
一瞬シルビアの方を見てみるが、シルビア本人は何も言うつもりがないのか、俺の方を見ていた。つまり俺の返事に任せると言う事なのだろう。
この場で俺に任せられても非常に困るんだが…。
先に言っておくと俺とシルビアはそう言った恋人関係、などといったものじゃない。俺自身シルビアの事をどう思っているのかは分からない。
好きなのかもしれないし、そうじゃないのかもしれない。
只単純に今までそういった事を考えた事がなかった。そんな事を考える暇がなかったと言うべきか。
だから実際、こうして聞かれると返答に困ってしまう。
「そんな事考えた事はなかったが…大切な人、とは言えるな」
素直に自分の思ったことを口に出す。
この返答で皆が満足してくれるのかは分からないが、取り敢えず皆の反応を伺うために周りを見渡してみる。
「どうした…?」
皆が皆俺の方を見て固まっている。先程まで会話に参加していなかった千里と沙耶でさえも俺の方を見て固まっている。
シルビアに限っては目を大きく見開き、俺の方を凝視していた。
そんな皆の反応に当然俺は戸惑い、少しだけ慌てる。
何か俺の言葉はまずかったのか…?恋愛に関する話なんて今までしたことがなかったために何が悪くて何がいいかなんてさっぱり分からない。
「お「きゃああああああぁぁぁぁ!!!聞いた皆聞いた!?」
ここは素直に謝っておこう、と思い口を開こうとしたのだが、その瞬間美紀の叫び声によって遮られてしまう。
「聞こえましたから、美紀は取り敢えず落ち着きなさい」
美紀の隣に座っていた美奈が美紀を取り押さえるが、それでも美紀の興奮は収まらない。
「男だねー」
そう呟いた瑠奈の言葉に瑠樺や愛も大きく首を縦に振る。
「私もこう言ってくれる男の人欲しいかなぁー」
俺とシルビアの方を交互に見ながらそう呟いた茜に大して2ペア姉妹の目が怪しく光ったのが分かった。
「「「「今男が欲しいっていったね?」」」」
四人見事なシンクロを見せ、それに対し茜も『やってしまった』といった表情を見せるが、既に時遅く、茜は2ペア姉妹に弄られる事になった
「でもそう言ってくれる男の人がいるのは確かに羨ましいものですね」
作品名:Muv-Luv Alternative~二人の傭兵~ 作家名:灰音