Muv-Luv Alternative~二人の傭兵~
「ライナ・グラウスにシルビア・オルレイン…」
ライナとシルビアが社に連れられ部屋を出ていった後、私は改めて手に持っている資料に目を落とした。
そこに記載されている事実は到底信じられる結果ではない。この私でさえもこの結果には驚き、そして半信半疑になっている。
だけど機械が壊れている、なんて事はない。それに私もミスはしてない。
この紙に記載されている結果はまごうことなき事実。現実。
資料に記載されているこの結果は今の時点では喜ぶべき事なのかもしれない。
けど長い目で考えるならあの二人は非常に危険な存在になる。私が作り上げたOOユニット。オルタネイティブ4において要とも言える存在。
OOユニットは量子電導脳という世界最高のコンピューターを持った人間…機械の人間。
そんな世界最高のコンピュター脳を持つOOユニットを超える脳を持った二人の人間。ライナとシルビア。
あの二人の過去にどのようなものがあるのかは私には想像出来ない。只一つ言える事は何の施しの受けてない人間からはこのような結果はでないと言う事。つまりライナとシルビアの脳、又は体には何かしろの施しが設けられていると言う事。
同情するつもりはない。あいつらはあいつら、私は私。そんな下らない感情に捉えられて世界の行く先を閉ざしてしまう訳にはいかない。あの馬鹿が切り開いた未来を潰す訳にはいかない。
「…未来、ね」
あの二人の存在を知っている私からしたらあの二人は希望であり、恐怖の対象、と捉える事も出来る。
だがあの二人の性能を知らない人間、つまり外側しか見ていない人間にとっては希望にしか見えないだろう。
凄乃皇がもたらした結果は全世界の人間が知っている。その性能からその実用性まで。
そんな凄乃皇の性能を引き継いだ高機動機が二機。そうなれば全世界の人間の士気は間違いなくうなぎのぼりになる。
そして私自信も確信している。あの二人が入れば全てのHIVEを潰す事は可能だと。
…だけどそのHIVEを潰した後は?あの二人の存在は世界からどう見られる事になる?
そんな事考えるまでもない。人間の存在を脅かす程のBETAを二機で壊滅させた存在。その機体を制御出来る程の人間。間違いなく恐怖の対象になってしまう。
「BETAを殲滅出来たら世界が纏まる、なんて事はないかしらねぇ」
そんな有り得ない夢を思わず口で出してしまう。
そう、そんな事は有り得ない。私自信よく分かっている。
人類の存亡がかかったこの状況でさえ人間同士で争っているのだ。こんな醜い存在にそんな夢物語を望むのは酷と言うものだ。
…そんな酷の世界で恐怖の対象となるライナとシルビア。まだ若いと言うのにあの馬鹿以上に過酷な状況に立たされている。
だけど、あの二人は分かっているだろう。自分達の力はBETAを殲滅出来るものであり、そして恐怖の対象になる力だと言う事は。
それを分かっていながらBETAと戦おうとしている。違う世界の住人が違う世界の為に自らを犠牲にしてまで尽くそうとしてくれている。
何故そこまでしてくれるのかは私には分からない。でも分かる事は一つだけある。
「あの二人は私に結果を見せようとしてくれてるみたいだけど…それは私の台詞なのよ」
二人の覚悟を改めて受け入れ、私自信に気合を入れ直す。
凄乃皇の構造をあの機体に流用。言うだけならまだ簡単だが、その難しさは前途多難となる事は分かっている。
当然だろう。凄乃皇の大きさは戦術機の6.5倍であり、それに積まれていたML型抗重力機構と荷電粒子砲を戦術機と同じ大きさの機体に積もうと言うのだから。
小型化なんてものでは済まない。最早車の出力を三輪車に積もうと言っているようなものだ。
先は見えない白と黒の機体の改造計画。
だけど私は必ず作り上げてみせる。今の世界の希望を作り上げる為に。
「それじゃあ早速…」
設計図の方に取り掛かろう。そう思ったが。
「…その前にシャワーでも浴びてこようかしら。息抜きは重要よね」
息抜きは重要。そう、息抜きは重要だ。
そう自分自身に言い聞かせながら部屋を後にした。
作品名:Muv-Luv Alternative~二人の傭兵~ 作家名:灰音