君影
驚き過ぎて、声も出ない。身動きひとつとれないまま、それでも関羽は目の前の「関羽」に釘付けになっていた。
栗色の髪。長さだけが違い、彼女のそれは以前のように腰まで届いている。けれどその色、その耳、その瞳。背丈も、顔の造作も、まったく同じだった。それでも関羽が鏡と間違えなかったのは、第一にその服装にある。高価そうな布をふんだんに使った、まるで貴族の姫君のような衣装。ふと何かを思い出しかけ、けれどそれはすぐに霧散してしまう。
これは夢。関羽はそれを、辛うじて思い出す。
「どうしたの? もしかして、あなた、迷い込んでしまった?」
「あ……」
「関羽」に不思議そうに訊ねられる。口調も同じ。目の前に同じ顔をした女がいることなど、気にもかけていないようだ。警戒心など欠片もない、無邪気な顔。同じ顔というだけあって、関羽の警戒も解けてしまいそうだった。
(それとも本当に、気づいていないのかしら)
そうとしか思えない。いくらなんでも鈍感が過ぎるというか、屈託がないというか。けれどそう思わせるには十分な程度には、「関羽」の雰囲気は独特だった。関羽とは違う。「関羽」の瞳は靄がかかったようで、分かりやすく言えば生気がなかった。それにどことなく、造作は同じだけれど、今の自分とは顔つきも違う。少しだけ、大人びているように見えた。
「……?」
「ええと……、そう」
「関羽」が怪訝そうな顔になり、関羽は慌てて頷いた。「関羽」はちらっと寝台のそばの蝋燭に目をやり、また関羽に視線を戻した。
「ここにお客さんなんて、久しぶりだわ」
「久しぶり? ……ずっとひとりでいたの?」
「ずっと? いいえ、」
否定した後、「関羽」はどこか逡巡するような顔を見せた。口を開きかけ、結局閉じる。何度かの繰り返しの後、「関羽」は話題を戻した。
「あなたは女の子だから、大丈夫かもしれないけど……でも、困ったわ。あなた、なるべく早く、出ていったほうがいいかもしれない」
「わたしが女だから、大丈夫……? どうして?」
「前にここに、知らない男の人が来たの。そうしたらあの人、とても怒っていたから」
「……あの人?」