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アズール湊
アズール湊
novelistID. 39418
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黒と白の狭間でみつけたもの (12)

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トウコの言葉に、テリムとヒヤリンが浮かれて踊り出した! 待ちに待っていた、旅の再開がよっぽど嬉しいみたい。

そんな2匹のテンションについていけないのか、顔を見上げてぽつんとしているタッくんに、トウコは屈みこんで、声を掛けた。

「タッくんも、今まで待っててくれてありがとうね! 今日はもっと大きな海をみせてあげる!だから、そろそろ元気出してね!」

そう言って微笑むと、ようやくタッくんもにっこりと笑った。

ボールを差し出すと、テリムとヒヤリンは、待っていましたとばかりに飛び込んだが、タッくんは表情を硬くして、首を横に振った。

「タッくん?」

トウコが問いかけても、タッくんは首を横に振る。やっぱりあれから様子は変だ。ヒウンタウンまでは距離があるし、少しでも楽なようにと思ってのことだったが、嫌がるタッくんに強制はしたくない。

困ったトウコの様子を感じ取ってか、タッくんはトウコをじっと見つめた。顔色を伺っているのだとわかって、トウコはタッくんの頭をなでた。

「気にしなくていいんだよ。行こう、タッくん」

トウコはそう言って、手を差しだした。

タッくんは、少し迷いながらトウコの顔を伺い、ようやく手を握った。

荷物を整えて肩に掛けると、トウコはタッくんと手をつないでリビングに降りた。

リビングではすでに、アロエさんと、キダチさんが、朝食を着くって待っていてくれた。

「おはようございます! アロエさん、キダチさん」

「おはようトウコ! タッくんもね!」

アロエの声に驚いて、タッくんはびくりとして、トウコの手を強く握った。

「おはようトウコさん、足の具合はもういいですか?」

キダチさんが言った。昨日、医者から旅の許可がやっとでたばかりだから、心配してくれているみたいだった。

「はい、もうすっかり調子がいいです!」

キダチさんの優しさが嬉しかった。

「良くなったって、昨日やっと旅の許可が出たんだ。あんまり無理をするんじゃないよ! ほら、朝ご飯は出来てるよ。早くお上がり」

「はーい」

心配してくれているアロエさんの気持ちも嬉しかった。

椅子に腰かけると、いつもより豪華な朝食が並んでいた。トウコが好きだった卵焼きや、甘いフルーツまである。

「すごーい!アロエさん、朝からこんなに作ってくれたの!?」

トウコが目を輝かせていると、アロエが照れくさそうに言った。

「旅先だと、あんまりろくなもの食べられないだろう? せめてここでは、しっかり食べてもらおうと思ってね!」

「いただきます!」

トウコが美味しそうに食べ始めたのを見て、アロエはにっこりと微笑んだ。

側でじっとみているジャノビーに声を掛ける。

「食べたければ、アンタのもあるよ」

「ジャジャッ!?」

アロエに声を掛けられたのに驚いて、部屋を逃げ出すように駆けだしていってしまった。行き先は多分、トウコが使わせてもらっていた1階の部屋だろう。

その様子を見て、アロエはため息をついた。

「なんだかねぇ…。 全く治らないねぇ、あの子は。トウコは心当たりないのかい?」

「うーん……私の知る限りは…。モンスターボールにも入りたがらなかったし、旅が嫌になっちゃったのかな…」

それだけが心配だ。嫌なら、無理に連れ回したくもない。

「それはないだろうさ。 あの子はトウコの側を離れないんだ。一緒にいたいはずだよ。少し、時間を掛けて様子をみてやるしかないかもねぇ…」

「そうですよね。 ただ、タッくんを傷つけるようなことはしたくないです。今はバトルに参加させない方がいいんじゃないかって悩んでます」

ヒウンシティのヒウンジム。普段のバトル好きのタッくんが喜びそうなところだけれど、今の様子じゃ心配だ。

「そうだねぇ、それがいいのかもしれないね…」

「焦らず、相手のタイミングにまかせてしまう方が、良いときもあります。きっと、トウコさんといる内に、また心を開いてくれるようになりますよ」

キダチさんが言った。

「そうですね。 ありがとう、アロエさん、キダチさん」

たくさんある、豪華な朝食を平らげると、トウコは1階の部屋の隅で座り込んでいた、タッくんを迎えに行った。

手をさしのべると、タッくんは、黙ってトウコの手を握った。

きっと理由があるはず。

それがわかるまで、トウコは聞きたい気持ちを押し込めることに決めた。

手をつないで、一緒に玄関まで歩く。

靴ひもをきつく締め直すトウコを、タッくんは側で黙ってみていた。

足首を上下に動かと、まだぎこちない気もしたが、痛みは全くなかった。

「もう行くのかい?」

玄関まで見送りにきた、アロエが言った。

側にはキダチさんも立っている。

「うん、チェレンもベルも、先に行っちゃったし、そろそろ巻き返さないと」

「寂しくなるねぇ…。アンタいてくれたおかげで、随分家の中が賑やかだったのに」

そう言ったアロエさんを振り返りみると、アロエさんは目にうっすらと涙を浮かべていた。

本当に優しい人。

食事から、洗濯、怪我の看病まで、何から何までお世話になってしまった。

別れるのが名残惜しい。

別れることはわかっていたはずなのに、トウコも目に涙が浮かんだ。

「本当にお世話になりました」

立ち上がり、お礼を言うトウコをアロエが抱きしめた。

「元気でやるんだよ!いつでも遊びにおいで!」

「ありがとう、アロエさん」

トウコも抱きしめ返す。

側でにっこりと微笑んでいるキダチさんをみて、トウコも微笑んだ。

「また、近くに来たら必ず寄りますね! いってきます!」

「いってらっしゃい!」

アロエとキダチに見送られながら、トウコはシッポウシティを出発した。

再開された旅は、はじめてここに来たときとは違って、まるで故郷を離れるような後ろ髪ひかれる思いだった。

きっとまたここに来よう。

そう決めて、側にいるタッくんと手をつなぐと、まっすぐと歩いた。

温かい日差しが降り注ぐ、ヤグルマの森に足を踏み入れた。

たった一週間ほど前の出来事が、嘘のように明るい森だった。

緑豊かな森の中から、ポケモン達の明るい声が聞こえる。あの森のルートの入り口も、トウコが入ったときとは全く違う表情をしていた。

草むらが生えている場所は、ひだまりになっているし、生い茂る木々の木漏れ日も優しい。この道が、あの日進んだ暗くて恐かった道だとは思えないくらいだ。

アララギ博士に頼まれた、ポケモン図鑑の完成を考えると、このまま森のルートをやり直す方が、たくさんのポケモンのデータが集まって、いいのだろうけれど、トウコはまっすぐ舗装された道を進んだ。

足が本調子じゃないのだから、森に入るなとアロエさんにきつく言われていたのもあるけれど、それよりも、側にいるタッくんが心配だったからだ。

森に入ればトレーナーも多い。野生ポケモンも出てくる。

タッくんのことだから、無理に戦おうとするかもしれない。それで、不安定な状態のタッくんが傷つくのが嫌だった。

まっすぐ進めばバトルも少ない。

森の先のゲートまでは少し道のりがあったけれど、目で見える距離。