黒と白の狭間でみつけたもの (12)
声を掛けてくるトレーナーの数もいたけれど、思った通り数は少なかった。ほとんど、テリムと、ヒヤリンで応戦したが、タッくんが納得いかなそうな顔をするものだから、少しだけタッくんもバトルに参加した。
とりあえず、連勝できたものの、タッくんの動きに切れはなかった。考え事をしているのか、攻撃への反応が遅い。
何度かいつもは当たらないような攻撃をくらってしまったり、危なっかしかった。
少し落ちこんだ様子のタッくんを励ましながら、トウコ達はヤグルマの森を抜け、ゲートにたどりついた。
「タッくん、この先すごいんだから!」
きょとんとしているタッくんの手を引きながら、スカイアローブリッジに入ると、気持ちの良い風が吹いてきた。
少し冷たい風が心地よい。
大きくて、白く綺麗な長い橋が、目の前に続いていた。
「テリムも、ヒヤリンも、一緒に歩きましょ!」
ボールからはなった2匹が嬉しそうに飛び出した。
大きな白い橋を見て驚いている。
その先に見える青い海。
はじめてみるのか、3匹とも海をみるなり固まってしまった。
橋の下にある大きな螺旋状の道路を、トラックが忙しそうに駆け回っていく。
ブオン、ブオンと音を鳴らす車に気づいて、ヒヤリンとテリムが橋の下をのぞきこむ。
それを追いかけるように、タッくんものぞきこんだ。
ものすごいスピードで駆け上がったり、降りたりしている車をみつめて、声を上げる。
ゆっくり歩き始めたトウコを追いかけながら、回り込む道を進むと、先が見えないほど、直線に続いている道にたどりついた。
橋の下に続いていた森林を通り過ぎて、足下には青い海が広がっていく。
海に浮かぶ白い橋。白い影が青にうつり奥まで続く。
長い白の直線は、対岸で街と重なっている。大きな港に囲まれたヒウンシティ。
その街を囲むように、存在する青い海。果てしない青空。
あまりの絶景に、トウコも大きなため息とついた。
真っ白な橋の上を歩いていると、まるで海の上を歩いているような錯覚を覚える。
海は地平線までよく見えた。深い青色が、地平線でわかれて、空の澄み切った水色に変わっていた。
雲もほとんどないせいか、遠くに船が浮かんでいるのまでよく見える。
こんな綺麗な景色は初めてだった。
どこまでもつづく海と空を眺めながら、3匹は楽しそうな声を上げている。
興奮した様子で海を指さすヒヤリン。
その先をみているテリムとタッくんも、いつの間にか笑顔になっていた。
海や空を眺める3匹に混じって、トウコもしばらく飽きずに景色を眺めると、再びゆっくり歩き出した。歩き出したトウコを見て、タッくん達もついてくる。
駆けてきたタッくんが、トウコの手をぎゅっと握った。
反対の手にヒヤリンが手を握る。
足下にはテリムが寄り添う。
みんなでこうやって歩くのは久しぶりだ。なんだかとっても嬉しかった。
有名なスカイアローブリッジ。
絶景とは聞いていたけれど、ここまでとは思わなかった。
他の人も、脇目もふらずに周囲の景色に夢中になっている。
自然とトウコも足取りがゆっくりになった。
橋の中央付近までやってきたかという時、突然、大きな汽笛が鳴った。
低い振動に驚きながら、橋の下をのぞき見ると、大きな乗客船がもくもくと白い煙をあげながら、スカイアローブリッジの下をゆっくりと通り過ぎようとしている所だった。
3匹もひょっこりと、顔を出して船を見る。
どこから来た船だろうか。外国の旅客船かも知れない。
広いイッシュ地方の先にも、いろんな街があるという。シンオウ地方、オーレ地方、ホウエン地方、ジョウト地方、カントー地方……。
どこもここから遠いけれど、いつかは行ってみたい。あんな乗客船でみんなと旅が出来たら、きっと楽しいだろうな。
大きな汽笛を鳴らして通り過ぎていく乗客船。
タッくん、テリム、ヒヤリンと一緒に、橋に寄りかかりながら、船が小さくなるまで見送った。
ふと後ろを振り返ると、元来た道が遠くなっているのに気づく。
ヤグルマの森もあんなに小さい。
シッポウシティももうあんなに小さくなって、すっかり博物館がどこだかわからない。
奥に広く続く野原と森の奥は、カノコタウンの方だろうか。
小さいけれど、遠くまでよく見えた。まるでジオラマみたい。
こうやってみると、随分歩いて旅をしてきたんだと実感して、不思議な気分になった。
橋の下を通るトラックに追いつこうと、走り出しては止まるを繰り返している、テリムと、ヒヤリンを追いかけるように、トウコはタッくんと手をつなぎながら、まっすぐ歩いた。
目の前に徐々に大きなビル群が見えてきた。ヒウンシティだ。
ビジネス街のヒウンシティ。噂通りの大都会。あんなに大きなビルがいくつもある。
灰色に突き立った棟をみて、段々と、上を眺めるようになりながら、大きな坂道を下り、ゲートにたどりついた。
スカイアローブリッジの道がこれで終わると思うと、少し寂しい気がした。
反対側へ続く、大きな海の橋を振り返り、もう一度だけ眺めてから、みんなに声を掛ける。
「また来ようね!」
「デリリィ~!」
「ヒヤヤ~!」
嬉しそうな声を上げて、テリムとヒヤリンが、ボールに戻った。
タッくんは、じっとトウコの目を見て、一瞬、困った表情を浮かべたが、トウコは頭をなでると黙って微笑んだ。
そのまま手を握ると、安心したようにタッくんはにっこりと笑った。
ゲートに入り、ヒウンシティの地図を手に入れると、ゲート内で、まじまじと見つめた。
思っていたよりも、広いかもしれない。
地図が語りかける広さに戸惑いながら、トウコは街中に飛び出した。
ゲートを出ると、橋からみるよりも高くなったビル群が、トウコの前に立ちふさがった。
空まで伸びる灰色のビル。
地図を見ればすぐわかると思ったのに、予想をさらに覆すような広い街。
高いビルの上には、テレビでしか見たことがないような、大きな広告の看板があちらこちらにある。
ビルの上に設置された巨大なスクリーンからは、見たことがあるCMが流れている。
入り組んだビルからは、有名な企業の名前の看板が、階数ごとに横から突き出すように並んでいて、広い道路には、見たことがないような数の人が、せかせかと歩いていた。
ポケモンセンターまでビルの中に入り込んでいるみたいに建っている。
サーッと血の気が引いていくのを感じた。
固まっているトウコの手を、タッくんがくいくいと引っぱる。
どうしたの? と心配そうにトウコをのぞき込んだ。
「すごいねぇ、やっぱり都会って人が多いんだね!」
タッくんに声をかけながら、頭の中は真っ白だった。
あんな地図を見たくらいじゃ、道がよくわからない。せっかく今日は、ゆっくり観光めぐりでもしながら、足を慣らそうと思ったのに、これじゃあ迷子になりかねない。
そんな考えばかり頭を駆けめぐった。
とりあえず歩こう!
そう思って歩き出したはいいのものの、どこへ行っていいやらわからない。
ヒウンシティでは、ヒウンアイスっていう有名なアイスクリーム屋さんがあるとか!
作品名:黒と白の狭間でみつけたもの (12) 作家名:アズール湊