風香の七日間戦争
七日目 「最後の日に」
七日目の朝が来た。
今日は少し涼しい雰囲気である。
風香は目覚ましの音でもそもそと起き上がる。
鏡を見ると、目が腫れぼったい。
(昨日さんざん泣いたから)
(でももう今日で一週間か。早いなあ)
(結局小岩井さんとの仲は進展してるんだろうか)
着替えて下に行くと誰もいない。
小岩井とよつばはまだ寝ているようである。
「用意ができるまで寝かせてあげるか」
風香は朝食の準備にとりかかる。
しばらくして小岩井とよつばが起きてきた。
「おはよう」
「あ、小岩井さん、よつばちゃんおはよう」
「ふーか、おはよー」
「悪いね。寝坊しちゃったよ」
「いえ。昨日いろいろあったから疲れましたよね」
「よつばつかれてないよ?」
「おまえが一番先に寝てただろ」
「小岩井さんもよつばちゃんと一緒に寝てましたよ」
「いや、まあ、うん」
今日の朝食は久々のパンである。
ふわふわのスクランブルエッグによつばは喜んだ。
「よつば、うまいか」
「うまい! ふーかはいいよめさんだ!」
「それを言うなら『いい嫁さんになる』だろ。どこで覚えてくるんだ」
食事と片付けを終わらせ、風香は掃除と洗濯を始める。
「今日は少し涼しいから楽ね」
一通り終わると、珍しくよつばが出かけてないので一緒に遊んでやる。
「ふーか、おりがみおってー」
「はいはい」
よつばは折り紙の本を持ってきた。
「これおってこれー」
風香が折ってやると、よつばは感心している。
「ふーかすごい! こんどはこれな!」
風香は折りながらよつばに聞いた。
「よつばちゃん、お母さん欲しくない?」
「かーちゃんいるよ?」
「うちのお母さんじゃなくて、よつばちゃんのお母さん」
「……よつばカレーすき」
風香は質問を変えた。
「じゃあねえ、よつばちゃんのお父さんが結婚して、お嫁さんが来たらどうする?」
「わかんない!」
「そうだよねぇ。わかんないよねえ」
いくつか折ってやると飽きたのか、よつばは絵を描き始めた。
「よつばちゃん、何描いてるの?」
「よつばととーちゃんとふーか」
よつばの描いた絵は三人で手をつないでる。
よつばがほとんど恵那と遊んでいたため、三人で出かけていないことに風香は気がついた。
二階に上がり、小岩井に話しかける。
「小岩井さん、お昼は三人で外に食べに行きませんか? 三人で出かけたことがないなあと思って」
「ああいいよ。そうしよう」
昼になったので、三人で出かけた。
久しぶりの外食で、よつばははしゃいでいる。
「よつばちゃん、何食べたい?」
「うーんとねー、オムライス!」
「オムライスか。風香ちゃん、ファミレスでもいい?」
「いいですよ。よつばちゃんの好きなものを食べさせてあげてください」
「とらとたべたとこにオムライスあった」
「ああ、あそこか。そうするか」
「へー、虎子さんと食事したんですか」
風香は少々含みを持たせた言い方をした。
「あ、いや、別に最初から一緒だったわけじゃなくて、よつばのせいで結果的に一緒になったというか。それに後からあさぎさん来たし」
「ふふ、小岩井さんでも動揺するんですね。状況がよくわかりませんけど、別に虎子さんとデートしたとは思ってませんから」
「そ、そうか」
三人は件のレストランに入った。
「ほんとだ。よつばちゃん、オムライスあるね」
よつばはずっとメニューを眺めている。
「よつばこれにする!」
「え!?」
「おまえオムライスがいいんじゃなかったのか。ハンバーグはこないだも食ったろ。オムライスにしろ、オムライスに」
「オムライスでもいいよ?」
三人は食事が終わり、店を出た。
「よつば、おいしかったか」
「うん、おいしかったー」
「私も外食ってほとんどしないので、たまにはいいですね」
「それじゃ晩飯のおかずも買っていこうか」
よつばが風香と小岩井の間に入り、二人と手をつなぐ。
「ふーか、これでえとおんなじ!」
「うん、そうだねー」
「へ? どういうこと?」
「今日、家でよつばちゃんが三人で手をつないでる絵を描いてたんです。それを見て三人でお出かけしようって思って」
「そうか。風香ちゃんは子供に近い目線で見てくれるから、子供も風香ちゃんに接しやすいんじゃないかな」
「それってほめてます?」
「もちろんほめ言葉だよ」
三人はスーパーに入り献立を考える。
「よつばは夜食べたい物あるか?」
「カレーがいい!」
「カレーはこないだ食べたろ」
「こんどはとーちゃんのカレーたべる」
「あっ、私も食べたいな」
「よーし。それじゃ、今日はとーちゃんがコロッケカレーを作ってやるぞ!」
食材を買い、また三人で手をつなぎ帰って行った。
家まで来ると、恵那がいる。
「恵那、どうしたの」
「あっ、お姉ちゃん。今日はまだよつばちゃんが来ないから、お母さん心配して見てきなさいって」
「今までお出かけしてたから。よつばちゃん、恵那と遊んでくる?」
「うん! とーちゃん、えなんちいってくる!」
「ああ。それじゃ恵那ちゃん、よつばをよろしく」
家に入り、二人はしばらくエアコンで涼んでいた。
「暑いなあ。エアコンなかったら家の中でも熱中症になるぞ」
「そうですよね。あっちの私の部屋、二階だからすごく暑いです」
「ああ、二階は暑いな」
「でも恵那ってエコに凝ってて、地球温暖化に影響するって言って、エアコンつけないんですよ」
「なるほど。よつばが地球温暖化って言ってたのは、恵那ちゃんに聞いたのか」
そして二人の間にしばし沈黙が流れる。
「え、えーと、風香ちゃんのお父さんてどういう人?」
「普段はおおらかですね。でも私たち姉妹の恋愛とかにはうるさそう」
「あ、そ、そうなの」
「ええ、だからもし私が年の離れた恋人を連れてったりしたら怒り出したりして」
「そ、それは風香ちゃんも大変だねぇ」
そろそろ夕方である。
「小岩井さん、カレー作り始めましょうか。煮込んだ方がおいしいし」
「ああ、そうしよう」
風香は小岩井のカレー作りを手伝う。
作っているうちによつばが帰ってきた。
カレーは二人で作ったため、予定より早く出来上がった。
よつばがカレーのにおいを嗅ぎつけ、もう食べると言い出す。
三人はいつよりも早く夕食を食べ始めた。
「小岩井さんのカレーってこういう味なんだ。なんか懐かしい味」
「子供向けにしてあるからな。風香ちゃんのお母さんも、昔はそういう味付けにしてたんだろう」
「とーちゃんのカレーうまいな! でもコロッケよりハンバーグのかちだ!」
「よつばちゃんはいい子だねー」
「とーちゃんせっかく作ってやったんだぞ。もうよつばには食べさせない」
「ふーかがつくってくれるからいいよ?」
夕食が早く終わったので、風呂も早めに入る。
風香は湯に浸かり、ぼんやりと考えた。
「小岩井さん仕事あるし、よつばちゃんもいるから二人だけの時間がないのよね。世の中の社会人と学生のカップルってどうしてるんだろ」
そして鏡に自分の姿を映してみる。
「私の魅力って何なのかな。十分魅力的って言ってくれたけど、今告白したら小岩井さん何て言うんだろう」
風香は告白のタイミングに悩んだ。