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凌霄花 《第三章 身を尽くしても …》

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 彼らは同時に違う情報も探っていた。

「何かあったか?」

「へぃ。ここ数カ月で身売りしてきた武家の妻女をすべて捜しましたが、それらしきものは、見当たりませんねぇ」

「そうか。ありがとう」

 助三郎は内心ほっと胸をなでおろしていた。


 次の日、今度はお銀とある屋根の屋根裏に居た。
眼下には、瑤泉院と内蔵助。

「内蔵助、よう参られた」

 瑤泉院はにこやかに内蔵助を出迎えた。

「はっ」

「して、この度の用はなんですか?」

「瑤泉院様に、ご報告をと思いまして参上した次第にございます」

「赤穂城明け渡し、事後処理、諸々御苦労でした」

「有り難きお言葉……」

 瑤泉院は内蔵助に問うた。

「……今後はいかが致すのですか?」

 彼女は内蔵助に期待していた。
夫の無念を、晴らしてくれるのではと。
 しかし、内蔵助は飄々と答えた。
 
「御舎弟大学様の閉門を解き、御家再興をと考えております」

 少しがっかりした瑤泉院だったが、それを表には出さなかった。

「そうですか…… よい結果になるといいですね」

「ははっ」

 その後、浅野家や赤穂藩に直接関する会話は無かった。
世間話、昔話に花を咲かせた後、内蔵助は帰って行った。
 
 瑤泉院はそばに仕える戸田局に向かって言った。

「……戸田、内蔵助はほんに御家再興しか考えておらぬのであろうか?」

 しかし、戸田局は気丈に主を安心させるように言った。

「そうやすやすと事は運びませぬ。少し待たれませ。御家再興と言ったのは、なにか策が有っての事」

 その言葉に納得したのか、瑤泉院の顔は少し明るくなった。

「そうか? では、少し待ってみようか……」





 屋根裏では、お銀は感心したように呟いた。

「昼行燈さん、ほんと上手くやるわね」

 助三郎も賛同した。

「だな。身内にまで知らせない。すごいな」

「でも、わざわざ江戸にまで来たのには意味がある。何か動きはあるわ。気を張って行きましょう」

「あぁ」

 二人で気を引きしめ、新たな調査に向かった。
助三郎は、途中お銀にある頼みごとをした。

「お銀、手が空いてたらでいい。尼寺を調べてくれないか?」

「……早苗さんがいるか調べるの?」

 遊郭には居ないと見切りをつけた助三郎。
次の可能性、出家を視野に入れ、調べることにした。

「頼む……」




 その次の日、助三郎は町人姿で新助と一緒に安兵衛をつけていた。

「最近、あの人と会ったか?」

「はい。おととい。でも忙しいみたいで。浪人のお知り合いと連れだって出かけて行きました」

 しばらく二人は安兵衛を見張っていた。
その日も彼は数人の浪人と待ち合わせ。
 そして少しの後、どこかに去って行った。

「新助、ありがとう後は俺の仕事だ」

「はい。頑張ってくださいね」

 赤穂浪士たちの後を追おうとした助三郎だったが、ある事を忘れていた。

「あ、そうだ。頼んであったあれはどうだ?」

 彼は新助の伝手を頼り、早苗を探して貰っていた。

「江戸の口入れ屋に片っ端から聞いてみましたが、無かったです……」

「そうか。手間かけさせた。ありがとう」

「次は、違う方面からも調べてみますね」

「すまん。じゃ、また今度!」

 助三郎は急ぎ足で、捜査へと向かった。



 その日の夜、弥七は屋根裏でニヤリと笑った。

「助さん。大収穫ですぜ」

 隣に居る助三郎も、二ヤリと彼に返した。

 安兵衛の後をつけた助三郎。
行きついた先には、内蔵助以下上方からやって来た赤穂の面々が集まっていた。
 そこで彼らは、討ち入りに関する具体的な話し合いをしたのだった。

「主の一周忌に決行。武士の鑑だな」

 仕事の方は大収穫。
しかし、自分の方は大凶作。
 早苗の手掛かりは何も見つからなかった。


 次の日の昼過ぎ。
助三郎は今まで足を運んでいなかったある場所へと足を運んだ。

「九壱郎、居るか?」

 彼は未だ江戸にいた。
投獄した弥生の取り調べはすでにすべて終わっていたが、彼女の処分は定まっていなかったからだ。

「あ。助ちゃん、久しぶり。何か用?」

 彼は書き物をする手を止め、助三郎を見やった。

「あの女に会いたい」

 助三郎は短くそういうと、腰の物を外し九壱郎に差し出した。
 
「じゃ、預かるね。あと、毒物とか持ってないよね?」

「持ってない」

 念のためと確認した後、九壱郎は助三郎を牢屋へと案内した。





「面会希望だ」

 九壱郎が牢の奥に向かってそういうと、中から噛みつくような女の声が。
 
「誰に口を聞いてるのかいい加減に自覚しなさい!」

「相変わらずみたいだな……」

 助三郎が苦笑しながら言うと弥生はがらりと態度を変えた。
 
「助三郎さま。やっと迎えに来てくれたの? 早く出してちょうだい」

 甘えるように言った彼女に、助三郎はつけこんだ。
 
「あぁ。出してやろう。その前に、一つ聞きたいんだが、俺の留守中、早苗に会ったか?」

 弥生はすぐに答えた。
 
「えぇ、会ったわ。正確に言うと、渥美様だったけど」

 早苗と弥生が会っていた事を知った助三郎は動揺した。
しかし、努めてそれを表には出さず、さらに質問を続けた。
 
「……それで、何か話したのか?」

「えぇ。引導を渡してあげたわ」

 冷たい笑を浮かべた弥生に、助三郎はぞっとした。

「なんて言ったんだ?」

 勝ち誇った顔で、弥生は言った。
 
「助三郎さまの赤ちゃんはわたしが産むのって」

 助三郎の腸は煮えくりかえった。
しかし、こらえた。

「……それで?」

「貴女の男の身体を思い出して、萎える。気持ち悪くて抱けたもんじゃないって助三郎さまが言ってたわよって教えてあげたわ」

 根も葉もないとんでもないことを、弥生は早苗に言っていた。
 助三郎の怒りが沸々と込み上げてきた。

「ほんと良いざまだったわ。結局はわたしの勝ちなの。でもあの娘、相当悔しかったのね、化けて出たのよ。あぁこわい」

 勝ち誇ったように高笑いする弥生に、助三郎の堪忍袋の緒が切れた。
 
「黙れバカ女! 人間の屑め!」

「あら、そんなこと言って良いのかしら?」

 しかし、そんな脅しはもう効かない。
助三郎は今まで我慢していたものをすべてをぶちまけた。

「お前なんか、早苗の千分の一にも満たない! 最低な女だ!」

 しかし、弥生はどこ吹く風。

「いいえ、わたしは水戸一番。いえ、この日本一の女よ。あの子なんかより、千倍も何万倍も美しく気高いのよ!」

 勝ち誇った顔でそう言い放つ弥生。
助三郎の怒りは頂点に達し、彼女の顔を見るのに耐えられなくなった。
 
「もういい。ここまで馬鹿な女と話すことはもう何もない。一生牢に居ろ!」

 そう言い放つと、一度も振り向くことなくその場を後にした。

 一方、まだ自分の天下を信じている弥生。

「そう、そういうことなら。あの子がどうなっても知らないわよ!」

 傍ですべて見ていた九壱郎は、今までずっと隠していたあれを懐から取り出した。
いつものお気楽な九壱郎で、

「弥生ちゃん。君にいいものあげるよ」