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夜恋病棟・Ⅰ

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ーーここで一つ、天使の仕組みを紹介しよう。
我々天使には、人間と一緒で寿命と老いがある。
そしてその年齢にあった階級もまたしかり。
階級は下、中、上の三段階。
つまりアーサーが突っ掛かってる下級試験は、人間でいう幼稚園から小学校の入学試験と似たようなものだ。
そしてそれぞれの階級によって容姿が異なってくる。
下級生は羽が小さく、頭の輪が小さい。
中級生は羽が腰辺りまで大きくなり、頭の輪の光が増す。
そして上級生は羽が地面に付くぐらいまでになり、頭の輪の大きさと輝きも素晴らしいものになるのだ。

ーーこれでフランシスがアーサーにため息をする理由がお分かり頂けただろう。

フランシスとアーサーは同い年の青年だが、フランシスはすでに中級生だ。
アーサーが通っている学校の先生でもあり、また担任だ。
幼なじみに勉強を教わるのは、プライドの高いアーサーには堪らなく気にくわないが、試験勉強をしないアーサーもアーサーだった。
学力はそんなに悪くないアーサーだが、何故試験は落ちるのだろうか。
誰か解明して欲しいものだ。

「…で、わかってるよね、修行。」
「…あぁ。」
「面倒くさいよ?」
「わかってる。」


フランシスが言う修行、とは、下級試験に三回落ちた者がする所謂補習、みたいなものだ。
修行課題は、人間界に行き、そこで一人の人間とペアを組み、そのペアを幸せにすることだ。
失敗条件は修行中ペアを幸せにできなかった場合と自分が天使だとペアに知られる事だ。
アーサーは本日から人間界に降りる。
つまり、修行開始だ。

フランシスは心配で頭痛がしてきた。

人間界へ降りるには、自らの翼でだ。
まだ小さい羽のアーサーは飛ぶのが苦手であった。

学校の職員室からフランシスと共に退室し、人間界へと続く穴へ案内された。
穴はすぐ人間界の空上空へ続いている。
足元に広がる青空が今にもアーサーを飲み込もうと口を開けている様にしか見えない。
フランシスも黙って足元の穴を見ていた。

「学校にこんな場所あったんだ…。」
「アーサー、怖い?」
「そりゃあ。」

そう言って穴へ飛び込む事を躊躇しているアーサーを後ろから思いっきり突き落とすフランシスはにこやかに頑張れ、と一言声をかけ、アーサーは穴へと吸い込まれていったのであった。

作品名:夜恋病棟・Ⅰ 作家名:菊 光耀