夜恋病棟・Ⅰ
わぁぁー…と叫び声が空から地上へと降り注ぐが、天使の声など人間には聞こえない。
真っ逆さまに突き落とされたアーサーは飛ぶこともままならず、そのまま地上に顔面から堕ちた。
それもちょうど街中の交差点の真ん中に。
運よく天使は人間には見えないし聞こえない。
激痛が走った顔を抑えながらアーサーは立ち上がった。
もたもたしている暇はない。
パートナーを早く見つけなければ。
修行期限は一週間。
一週間で仲良くなり、そして幸せにしなければ天使失格として人間としてまた一生をやり直しさせられてしまう。
できれば女が楽だななんて呟いて服の埃を祓うアーサーだったが、パートナー探しは本当に難しいものだとはまだしるよしもなかった。
羽と頭の輪をしまえば天使は人間に見えるようになる。
(アーサーには羽しかないが。)
早々と羽をしまったアーサーはとりあえず堕ちた町をぶらつく事にした。
――そう、ぶらついて10時間。
なんの収穫もなく忽ち夜になり街中もすっかり暗く人気がなくなってしまっている。
半泣きのアーサーはビルの間の狭い路地へ座りこんでいた。
こんなにもパートナーを見つけるのは難しいなんて。
話をかけても断られるし、又は無視をされる。
気が合う奴など一人としていない。
溜め息を吐いた瞬間、路地の奥から叫び声が聞こえた。
顔を上げたアーサーは、立ち上がり声がした方へ向かった。
そこには数人の暴力団らしき男達に無理矢理地面に押し倒されている一人の人間が居た。
じたばたと押さえられている人間はもがくが、直ぐに押さえ付けられてしまう。
止めろ、離せとしきりなしに叫ぶが、口に布を押し込まれて声も上げられなくなってしまったようだ。
「んー、んーっ!!」
なんとか逃れようと諦めずもがき続ける人間に数人の男達のリーダーらしき人物が押さえ付けられている人間のベルトに手をかけながら言った。
「こんな夜中に歩いてるんだ、悪いのはお前だ。」
怖いのか押さえ付けられている人間は泪を浮かばせながら首を振るがベルトはするりとほどかれ、次はズボン、という時、アーサーはいてもたっても居なくなりその男達に殴り掛かった。
……その後の記憶がアーサーには無い。
気がついたら、押さえ付けられていた人間が此方を心配そうな顔で見つめていた。
暗い路地から蛍光灯が眩しい室内に居たし、ふかふかのベッドに寝ていた。
重い瞼を二三回瞬きをすると身体中が痛いのに気づく。
天井からその人間へ視線を移す。
「よかった、気づいたある…。」
「…俺は?」
人間は安心した様にアーサーの手をとった。
人間は長い黒髪に切れ長の目。
美しい金色(こんじき)の瞳が涙で潤っている。
女性の様に美しいがよく見れば喉仏もあるし、声も微妙に低い気がする。
その人間の話によるとあの後アーサーは男達と暫く闘い、共倒れしたらしい。
怪我だらけのアーサーをここまで運んで手当てをしたのもこの人間だという。
つまり此所はこの人間の家でこのベッドは人間のだ。
「自己紹介が遅れたある。我は王耀。助けてくれて有難う。」
「あぁ…。俺はアーサーだ。アーサー=カークランド。」
そこで思い出した。
いけない。
パートナーを見つけずに1日が過ぎてしまう。
天使は人間より回復力は高いため、こんな怪我は少しで回復してしまうし、これ以上人間に迷惑はかけられない。
アーサーは起き上がった。
すると耀がすぐさま静止を要求してきた。
「大丈夫だ。これ以上世話になれない。」
「お前…、怪我もしてるしそれに、帰る家あるあるか?」
それを聞いて床に付く筈の素足がぴたりと止まった。