夜恋病棟・Ⅲ
平日のためか思ったほど人は居なかった。
耀の住んでいるアパートはショッピングモールに徒歩で行ける範囲なので寒くないように、と耀のコートを一枚貸してもらったが男性物のSサイズだったため、アーサーには幾らか小さかった。
袖から手首が出ているのを見て、耀はコートも必要かと笑った。
日用品を何も持っていなかったアーサーは昨日下着もタオルも耀の物を貸して貰っている。
着替えは一日ぐらい洗わなくて平気だとアーサーは二日同じ服を着ていた。
耀は最初に何を買いたいかと必要な物を書いた紙を見せながら聞いてきた。
とりあえず今近くにある服屋でどうだろう。
アーサーは服を買いたい、とだけ言えばじゃあそこに入るかとアーサーのにらんでいた通りの店に入った。
好きな服で良い、と言われたがアーサーはそんなに服のセンスに拘(こだわ)りはなかった。
着られればなんでも良い、とはあえて言わずに適当に柄の在る二枚の長袖Tシャツとジーンズを掴んだ。
「それで良いあるか?」
「あぁ。でも…良いのか?」
「遠慮するなと言ったはずであろう?」
レジを済ませ、次はどこへ行こうかと笑う耀が可愛いと感じてしまうのはなぜだろうか。
どこでも良い。
耀と一緒に居られるなら。
俺は何時しか、自分の浸っている幸せに気が付かないでいた。
ショッピングを済ませ、小腹が空いたという耀が立ち寄ったカフェの珈琲は苦味ばかりが広がりアーサー好みではなかったが雑味が無く、美味しいといえば美味しかった。
手荷物が思った以上に多くなってしまい二人共に両手一杯に紙袋やビニール袋をぶら下げて帰宅した。
部屋にタイマーをかけたストーブを置いてあったため、暖かくなっていた。
凍えた身体を和らげてくれる。
「そうだ、アーサー、また紅茶を淹れて欲しいある。いいあるか?」
帰りに寄ってきたケーキ屋で購入したホール型のショートケーキを食卓テーブルに置きながらコートを脱ぐアーサーに話し掛けたのだった。
何故二人だけなのにホールなのかとケーキ屋で眼を輝かせる耀に問うと、一切れだと足りないからだと言うからだ。
アーサーは一切れで十分だが、残りはきっと耀が食べるのだろう。
先程の問いに、アーサーは喜んで、と微笑みやかんに水を注ぎ火にかける。
すると呼び出しのチャイムが鳴り響いた。
アーサーが出ようとすると良い、と言われて耀が玄関へ向かった。
訪問者が誰か気になってそっとリビングから覗くと、そこには耀と話すアーサーのよく知った人物が立っていた。
「フランシス!?」
話していた二人は同時にこちらを向いた。
耀は快くフランシスを部屋に上げた。
丁度ケーキもある、お湯も沸騰した所だ。
テーブルでケーキを切る耀と紅茶を淹れるアーサーを交互に見やるとフランシスは微笑んだ。
「二人とも、お似合いだね。」
その言葉にアーサーは紅茶を溢し、耀はフランシスに差し出す筈のケーキを落としてしまった。
「だ、台拭き…。」
「こ、これは我が食べるある。」
フランシスは動揺する彼らを見て笑いだした。