夜恋病棟・Ⅲ
「へぇ、耀ちゃんは短大に通ってるんだ?勉強の方は?」
「まぁまぁあるな。悪くはないある。」
耀の向かい側に座ったフランシスはまるで女を口説くように頬杖をついて微笑みながら耀にひっきりなしに話し掛けた。
其れが気にくわないのか、アーサーは耀の隣で一人詰まらなそうにケーキを口に運んでいる。
笑い合う二人がどうも憎たらしくて気に入らない。
見ていて苛立ちも覚えたほどだ。
それに気づいたのか、フランシスは紅茶を一口飲み、アーサーに煙草の箱を二つ渡したのである。
「約束の。」
「あぁ…ありがと。」
突然の事に驚いていると、じゃあそろそろ帰るかとフランシスは席を立った。
まだ居ても良い、と止める耀の頬に軽くキスをするとまた来るからとウインクをしたのだ。
それに赤面する耀に頭にきたのか、送る、とフランシスの腕を掴み急ぎ足でアパートを出た。
「やっぱりね。アーサー惚れてるでしょ。」
「誰に」
苛立ちを露にした声色で返事が帰ってくるとフランシスは溜め息を吐いた。
「耀ちゃんに決まってるでしょ。」
外は寒気のため凍えるほど冷えていた。
耀の部屋から見えないくらいの所に来てからフランシスは言った。
アーサーは戸惑い言葉が出て来ない。
黙って項垂れる。
ま、いいけどさ、と空を見上げうねりのある金髪を掻くとフランシスは羽を広げた。
バサリと羽ばたき一つ聞こえたので顔を上げれば彼が手を振っていた。
「また連絡する!」
そうして友人は天界へと飛び去ったのだ。
部屋に帰ると、耀はベッドに寝転がっていた。
近付いてみると寝息も立てている。
今日は特になにかあった訳ではないが、学校で疲れたのだろうか。
耀の下にある掛け布団を引っ張り彼に掛けてやる。
そうして自分はシャワーを借りて歯磨きをし、消灯した。
昨日耀が寝ていた布団に今日は自分が寝る事になる。
そうだ。
それで良いのだ。
俺がここに来たのは耀が幸せになるため。
残りは5日。
時間は限られている。
なんとかしてみせるから、耀。
俺と一緒に居てくれ。
「おやすみ」
フランシスがキスした頬に軽くキスをし、布団に潜り込んだ。