夜恋病棟・Ⅲ
「……っ!」
耀が気がついた時には既に朝になっていた。
ばっと勢い良く起き上がる。
しまった、と耀は一人焦った。
床を見るとアーサーはまだ寝息を立てていた。
それに安心し、身体の力を抜いてベッドに沈み込んだ。
…良かった。
冷や汗を拭い、もう一度目を瞑る。
そうだ、あのあとだ。
アーサーが友人を送る、と部屋を出ていった後だ。
「へぇ、あれが貴方の同居人ですか。」
誰も居ない筈の部屋で一人、三人分の皿とフォーク、そしてティーカップを片付けていた背後で声がした。
驚きで持っていた皿を落としてしまう。
パリンと軽快な音を立てて皿が砕けた。
この声は、今朝の!
警戒体制で振り向くと、そこにははたして漆黒の瞳と黒髪を切り揃えた彼が居た。
「菊っ!!」
不法侵入者はおや、私の名前を呼んでくれるとは、と呑気な事を呟く。
「出てけある!」
「そうはいきません。貴方がアーサーと同居なんて…。解ってます?貴方は歴史や法律に背く行いをしているのですよ?」
「はん、もう我には関係無いある。」
「さぁ、私と一緒に行きましょう。」
「黙れっ!!」
耀が叫ぶとテーブルにあった食器類が一緒にして砕け弾けた。
最早原形を留めている物は無く、すでに糟になっていた。
「おー、怖いですね。」
「早くしないと、今度はお前がああなるある。」
耀の瞳孔は猫のように縦長に引き締まり、瞳は輝く金色へと変わっていた。
静かに菊を睨み付ける耀に笑いかけると彼は言った。
「では、私がアーサーを消してあげましょう。それで貴方はもう此処に居る理由は無くなる。」
「…っ貴様!!」
人間ではない速さで菊に飛び掛かろうとした耀をさっと後ろに飛んでかわすと菊はベランダから飛び降りた。
耀がベランダの手すりから下を覗けばもうそこに菊は居なかった。
緊張が溶け、手摺に掛けていた手を見ると爪が鋭く尖り、伸びていた。
嫌気が差すと同時に一気に眠気が襲ってきた。
久々に力を使ってしまったせいか…。
耀はベッドへ足取り悪く辿り着くとそのままなだれ込んだ。