夜恋病棟・Ⅲ
昨日割ってしまった食器を片付ける。
粉砕してしまったので、菷で掃いた後に掃除機でもかけよう。
きっとアーサーは気付かなかったのだろう。
彼は凄く気を使ってくれていたので、気がついていたら恐らくは片付けてくれていただろう。
それに幾らか安心した。
掃除機をかけ終えて電源を切った瞬間、耀、と背後から呼ばれた。
この声は…。
大丈夫、平気だ。
「おはようある、アーサー。」
「おはよ、耀。朝から掃除か?」
手元にある掃除機を指差して問われると、苦笑いをして誤魔化す。
「埃が目立って…。」
「それぐらい俺がやっておくよ。それに耀、今日も学校だろ?」
「あー…。学校は、休むある。」
その一言に相当驚いたのかアーサーの寝ぼけ眼が見開かれた。
「…どういうことだ。」
「我の、ちょっと…メ、メンタル的に」
その瞬間、アーサーの心にチャンス到来だと警報が鳴り響いた。
耀がメンタル的に学校を休むというのだ。
何か心に思い悩む事が有るに違いない!
耀を幸せにする事は一つ。
もう二度と来ないかもしれないチャンスだ!
万歳をしたくなるアーサーはテンションが上がってしまわないように冷静になりながらも耀に事情を聞く。
「何か悩んでるのか?」
「まぁ、そんなもんある。」
「友人の事でか?」
「そんな奴あるね。」
「上手く行ってないのか?」
「…いや、上手くいってるある。」
耀はしゃがみこみ掃除機のコンセントプラグを巻き上げるボタンを押すと、あっと言う間にコンセントプラグは掃除機内部に仕舞われた。
「…ただ、上手く行きすぎて問題が発生したある。」
「上手く行きすぎて?」
耀は掃除機を元の場所まで運んで行き、今ご飯作るから、と台所へと引っ込んだ。
アーサーは逆に悩んでしまった。
どうやら上手く行くような悩みでは無いらしい。
とりあえず顔を洗おう。
随分間抜けな顔をしているに違いないから。
ペタペタと床を素足で歩くと、チクリ何かが足に刺さった。
見ると昨日使っていたティーカップの色にそっくりの欠片だった。
耀がティーカップを割ってしまったのだろうか。
そういえば昨日のティーカップが見当たらない。
…八つ当たりか?ただ手を滑らせただけか?それとも考えすぎか?
台所でてきぱきと動く耀を目を細めて眺めた。