夜恋病棟・Ⅲ
二人で紅茶を飲んでいると、フランシスからの通信機が振動した。
アーサーは煙草を吸うからとベランダへ出ると通信機を耳に付けてからフィルターをくわえ、火を付けた。
「アーサー、大変なんだ。」
「こっちも大変なんだフランシス。」
「何、あれ以来上手く行ってないのは順調なの?」
「それもそうだが、耀の悩みが聞けたんだ。」
「って違うよ、それどころじゃない!こっちはもっと重大なんだ!」
「何だよ、慌てて…」
フランシスらしくない、と灰皿に先端の燃え尽きた部分を落とす。
いいか、良く聞けよ、とフランシスが一層低い声で話した。
「天界に帰ってから、耀ちゃんについて調べようと人生図書館へ行ったんだ。…ところが、だ。」
人生図書館とは、生きている人間一人ひとりにある一つの人生が綴られた本が置いてある図書館の事だ。
つまり、本の数は生きている人数分。
人間が生まれると本は突然露れ、死ぬと燃えて消えるのだ。
「…無いんだよ、耀ちゃんの本が。」
驚きでフィルターを再びくわえようと口許に持っていった手がぴたりと止まる。
「ち、ちょっと待てよ。フランシスの探し間違えだろ?」
「管理人にも聞いたし何人もの先生と協力して探したが、王耀は居なかった。」
「おかしいだろ!?本が作成されなかったのか!?」
「俺も最初は疑ったさ。あり得ないってね。だけどね、本当に無いんだよ。」
「…嘘だ。」
「王耀は生きてはいない。もしくは、人間ではない。」
アーサーは通信機を落とした。