夜恋病棟・Ⅲ
「……。」
耀はアーサーの会話を一通り聞くと紅茶を静かに飲み下した。
瞬きをすると細長く伸ばした瞳孔が元の大きさに戻っていた。
やはりあのフランシスは賢い天使だった。
対面は避けたかったが…。
アーサーに我の正体がバレてしまうのも、これで本当に時間の問題になってしまった。
目を瞑ったその瞬間だった。
激しい音を立ててアーサーが窓を割って部屋に倒れてきたのだ。
ガラスの破片が部屋中に飛び散った。
耀は突然の事に身を丸くして耐えた。
「アーサー!!」
駆け寄ると痛ぇな、と言いながらアーサーは立ち上がった。
頭から血が流れ出ていて、体も擦り傷がそこら辺にある。
アーサーはひたすらベランダを睨み付けていた。
耀も吊られてベランダを見ると、そこには黒い翼を広げ、空中に留まっている菊が居たのだ。
黒髪はそのままであったが、漆黒の瞳はそこにはなく、細長く伸ばした瞳孔に金色の瞳が此方を見ていた。
「悪魔!」
アーサーが叫んだ。
「なんだ、天使ってさっさとくたばる物だと思ったのに、以外にしぶといんですね。」
菊が人差し指を前に出すと同時にアーサーの体が後方に吹き飛ばされ、壁に激突した。
暫くするとずるずると壁から雪崩れ落ち、床に転がった。
先程ガラスが割れたのも同じ攻撃だったのだろう。
しかしアーサーは何時まで経っても翼を出そうとはしなかった。
きっと耀にバレるのをひたすら隠そうとしているに違いない。
天使の力は翼を出さなければ半分も発揮されないし、天使特有の力も使えないのだ。
「菊!止めろ!」
「言いましたよね?アーサーを消してあげましょうって。」
「耀、逃げろ…!」
相当なダメージを喰らったのか、アーサーは上半身を起こし、耀へ逃げるよう伝える。
「あと二発って所ですかね。」
黒い翼を一層大きく羽ばたかせる。
そして人差し指を再び前に差し出そうとした。
衝撃に耐えようと目を強く瞑り、防御体制に素早く移った。
しかし、何時まで経ってもその衝撃は来なかった。
顔を上げると、そこには…