夜恋病棟・END
連れて還ってからが大変だった。
まず最初に天界に居る警察と似た仕事をする組織に連絡を取り、その後アーサーの修行は免除するよう学校長へと申請をする。
そして耀の正体を突き止めるため情報機関が動いた。
ほとんどをフランシスが行ったのだ。
アーサーはというと天界へと辿り着く前に気絶してしまい、病院送りになった。
相当なショックだったのだろう。
気が付いてからと言うもの、何も口にしなくなり、煙草も吸わなくなった。
ただずっとベッドへ座りっぱなしになってしまった。
アーサーがショックだったのは色々と在るだろうがまず自分のパートナーが悪魔だと気付かず仲良くしてしまった事、そして、悪魔に恋をしてしまった事だろう…。
そう考えれば、耀がアーサーの傷の回復力に何も言わなかったのは筋が通る。
フランシスは先生としての仕事よりアーサーの事件に追われる毎日になった。
アーサーがあんな状態だが、事実を聞き出さなければいけないし、こちらもわかった情報をアーサーに伝えなければならない。
一番辛いのは、フランシスなのかもしれない。
見舞いに来たがやはりアーサーは虚ろな目でただ一点を見つめ続けていた。
その横にある椅子に座り、彼の横顔を見ながら話した。
「アーサー…」
「……。」
「耀ちゃんの正体がわかった。」
その一言にはっとした様に此方を見た。
天界に帰ってきて初めて目を合わせてくれた。
何も食べていないので顔は痩せこけ、顔色は悪い。
水色の患者服が不似合いの彼はどこへ行ってしまったのだろう。
あの元気な姿をもう一度見たい。
「耀の…正体。」
「聞きたくないなら、無理に聞かなくても良いけど。」
「…聞く。」
声も元気が無く、途切れ途切れに単語を繋いだ。
「…耀ちゃんは5年前に悪魔としての仕事中に突然姿を消したらしい。原因は解ってないが、人間界に溶け込みたかったっていうのが一番の理由じゃないかって。けど、耀ちゃんは悪魔の中でも最高峰の位置にいるかなりの凄腕の持ち主。耀ちゃんに出会って生きて還ったのはアーサーが初めてだよ。」
天界でも噂になっていた人物だ。
しかしアーサーやフランシスが気づかなかったのは耀の魔力が微塵も感じなかったからだ。
つまり、やはり凄いのだ。
そこまで魔力を操れる奴など、天界でも五人以下だ。
「そうか…。」
そういうとアーサーはいきなり立ち上がり、患者服を脱ぎ始めた。
「おぉ!?ちょっと、アーサー!?」
「んだよ、」
「身体、もう良いのか!?」
「……。」
ベッドサイドに置かれた机に畳んであった耀に買ってもらった服に着替えるとそのまま病室から飛び立ってしまった。
フランシスは急いで後を追う。
「ちょっと、どうしたの急に!」
「俺は、大天使になる。」
「大天使って、上級天使から僅か三人しか選ばれないやつだよ、そんなもの目指して、何するのさ。」
「耀と逢うんだ。」
その一言でアーサーの肩を掴むと此方に向けた。
「…辛い、思いをさせたな。」
「……。」
「俺が、あの時気づければこんな事には…」
「…っもういい!」
アーサーはフランシスの腕を振り払うとそのまま全速力で飛び立ってしまった。
それを見送る事しか出来ないのはフランシス自身分かっていた。
自分の問題は自分で解決するのがアーサーだったよな、と独り言を呟き、病院へと後戻りしたのだ。