夜恋病棟・END
フランシスが面倒を見ていたあの時代のアーサーはもう居ない。
あの事件の後、アーサーは人が変わってしまった。
授業を真面目に受け、成績はいつもトップ。
そして恐るべき速さでフランシスを抜かし、上級天使へと登り積めた。
そしてなんと、あの大天使になってしまったのである。
産まれながらの才能だと皆は誉め称えるが、違う。
アーサーの隠れた努力は凄まじいものだった。
勉強から魔力の操り方、天使としての振る舞いや常識などとにかくありとあらゆる物を修得し、そしてその成果が表れた。
これはフランシスしか知らない事実だが。
それ以来アーサーと一緒に歩くフランシスが少し微妙な立場に居た。
あの事件は世話になったとアーサーはフランシスに恩があると敬意を示しているがアーサーは天使の中で最高峰の位置にいるのにそんな敬意を受けていいのか頭を抱える毎日だった。
ある日、天界での祭の事である。
アーサーは大天使、つまり大神ゼウスの側近なのでフランシスと一緒に祭へ参加は出来ないが、控え室でアーサーの装飾に戸惑っていた所へフランシスが駆け付け、装飾を手伝っていた。
「こんなヒラヒラ、動きづらいな…。」
「仕方ないだろ?大天使様。」
「その呼び方止めろ。」
アーサーは全身を純白の布で身体を巻き、足までの純白のマントを飾った。
金の頭には緑の若葉と蘿で結った冠を被る。
鏡に映った全身をくるくると周りながら後ろ姿や横姿を見る。
「歩き難いし…どうやって手を出すんだよ。」
「はいはい、文句は慎む。似合ってるよ。」
外が騒がしくなってきた。
そろそろ時間なのだろう。
「ほら、行ってらっしゃい。俺はここから見守ってるよ。」
フランシスも努力し、アーサーの側近へとなっていた。
本当は自分もアーサーと同じ大天使になれたら良いな、なんて思ったりもしたが、自分では大層無理な話だ。
アーサーの、つまり大天使の側近になれただけでも名誉な事だ。
「どうせ立ってるだけなんだよなー…」
「早く行ってらっしゃい、大天使様」
アーサーは面倒くさそうな顔をして控え室を出ていった。