夜恋病棟・END
…その夜。
アーサーは独り、人間界へ続くあの穴へ来ていた。
最初にここに飛び込んでから耀との出会いは決まっていた。
またここから始めるのだ。
アーサーは深呼吸をし、翼を広げた。
――とん
アーサーの肩に誰かの手が触れ、魔力を高めていたのを中断された。
振り返るとそこにはよく知った顔、フランシスの顔があった。
誰にも気づかれないように出てきたつもりなのに、いつの間に。
「こんな所でこんな時間に、独りでどうしたの?」
「フランシス…」
「冷えるから、戻ろう?」
アーサーは俯き、そのままフランシスの腕を振り払った。
急な事にフランシスが目を丸くする。
「これから、人間界へ行く。」
「…耀ちゃんの事だね。」
その名前に身体が反応する。
「大天使にアーサーがなりたかった訳、それは自由に人間界へ出入り出来る様になるから。そして、悪魔と天使が一つになれる方法、それは悪魔は人間の魂を吹き込み、天使が人間の魂を抜き出す事で罰としてその天使と悪魔は人間になる。耀ちゃんと一つになるために、今からその罰を実行しに人間界へ降りるつもりだね。」
「な、んで…」
全ての計画を読み取られ、絶望した顔で黙り込んでしまったアーサーの両肩を掴む。
その手が異常に力強くて痛みで眉間に皺が寄る。
「アーサー。俺も本当はこんなことしたくないが、アーサーの為なんだ。」
「ふ、フランシス?」
突然、フランシスの深海色の瞳が金色へと変色した。
丸い瞳孔が縦長になる。これは…悪魔と同じ!
「お前、まさか、悪魔!」
「いや、俺は天使さ。しかし、今日の祭の時に呼び出されたんだ。冥王ハーデスに。」
祭の舞台裏から様子を観ていたフランシスの脳内に響いた低い声。
そうして次の瞬間には見知らぬ暗い空間へと自分は居た。
見回していると階段の天辺に引かれたカーテンの向こうから声がした。
先程脳内に響いた声とおなじだ。
よく見れば人影らしきものも見える。
「貴方が大天使、アーサーの側近のフランシスですね?」
「お前は…ハーデス!?」
シルエットで羽が六つあるのに気が付き、咄嗟に出た人物が冥王であった。
「一つ、頼みがあって貴方をここに呼びました。」
彼は語る。
「アーサーは法を犯そうとしている。そして貴方もご存知の悪魔の耀も同様。」
「法とは、あの禁断の…。」
「貴方には力を差し上げます。一度きりの、神にも負けぬぐらいの魔力を上げましょう。その力でアーサーの動きを封じ、そして記憶を消去して欲しいのです。」
「力!?」
フランシスも感づいていた。
アーサーが耀を思っている事を。
そしてまさかとは思ったが法を犯そうとしているのを。
フランシスとしても、アーサーを手放したくはなかった。
しかも、法を犯し、人間になるまでは良いがその死後、魂は永遠の苦しみから解放されなくなるのだ。
アーサーを思えば、止めてやるのがベストだ。
「…分かった。」
そうして、フランシスはハーデスから力を貰った。