夜恋病棟・END
「アーサー、今の俺には敵わない。」
「放せっ!俺は人間界へ行くんだっ!!」
魔力を使い、波動を起こすがフランシスはびくともしない。
それどころか掴まれた肩から魔力が吸い取られ、力が入らなくなっていた。
「フランシス…止めろ、」
「アーサーの為だ。」
す、と片方の手が離れ、アーサーの額に触れる。
暴れていたアーサーがぴたりと止まり、止めろ、と言いながら涙を流し始めた。
「止めろ…俺が、今まで、この為に…努力したんだ…お願いだから…。」
「ごめんね、アーサー。」
額に触れていたフランシスの手が光った。
「止めろおおおおおぉぉぉォォォォォォォ!!!!」
――――――…。
…目が覚めた。
良く知った天井が視界を埋める。
時計を確認すると8時前。
あぁ、もうすぐあいつが起こしに来る。
ドンドンと扉を叩く音を聞き、嬉しさに表情が綻びる。
わざと返事をせず、布団を深く被ると暫くしてドアノブを回す音がして扉が開いた。
そしてスリッパの擦れる音がしてカーテンが無造作に引かれた。
シャッと軽快な音と共に日光が部屋に射す。
「アーサー!起きる時間あるよ!」
被っていた布団を軽々剥がされ叩き起こされる。
仕方なく起き上がると朝から元気な耀の姿が目にはいる。
「おはよ、耀。」
そう挨拶して顔を近付けると耀は理解したのか目を瞑った。
そのまま唇同士をくっ付けようとするとドンドンと誰かが開いている扉を叩いて二人の動きを止まらせた。
二人同時に振り向けばそこには満面の笑みの菊。
「おはようございます、耀さん。永遠に眠りたいですか、アーサーさん」
「菊ー!おはよある!」
「折角良いところだったのに…テメェ邪魔しやがって。」
「朝から喧嘩は駄目あるよ。」
朝ご飯はフランシスが作ってるあるよーと耀はアーサーの傍から離れ、菊の頬に一つ接吻した。
それに菊はお、と声を出しアーサーはえ、と声を出した。
耀はそのまま部屋から出て行き、菊は自慢気にふんと鼻で笑い嫌な笑みをアーサーに向けるとアーサーは枕を菊に投げ付けた。
それを軽々かわすと手を振って部屋から立ち去った。
ふざけんなと一人部屋で叫び、階段をかけ降りた。
リビングでは既に四人それぞれの席に着き、アーサーを待っていた。
「ほら、アーサー早く、ご飯冷めるよ。」
「早くしなさい眉毛さん。」
「アーサー、お腹空いたあるっ!」
この四人の同居理由は只仲が良い同級生だからだ。
全員仕事も違う。
しかし誰一人恋人を作ろうとも結婚しようともしない。
もうここで暮らして年月が経つが一生このままなのだろう。
アーサーは急いで席に着くと、全員で頂きますと挨拶した。
実際菊とアーサーは耀にベタ惚れで毎日奪い合いの喧嘩が絶えない。
耀は笑いながらどちらにも付かず、その場の気分でどちらが良いかとかどちらかの頬に接吻をするがフランシスは知っている、アーサーと耀は想い合っている事を。
しかし菊の事もしっかりと見捨てないでいる。
どういう事か四人で意見を分け合えばフランシスとアーサー、菊と耀に分かれるのだ。
前世もきっと仲が良かったのね、と近所の住人に言われるがそうではない気がする。
逆にとっても仲が悪い気がするのはアーサーの気のせいか?
本日は休日。
皆で掃除して、買い物に行って、喧嘩して、笑い合って、おやすみなさい。
死んだ後では、遅いから。