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Fate/10 Bravery

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森宮駅に、スーツケースを携えた男が列車より降り立った。

成人式を控えている程度の年齢に見える外見でありながら、彼の目はまるで鷹のように鋭く、油断がない。そのまま改札を出、スーツケースを引きずりながら、駅の外に拵えられた大きなデッキの角に腰掛ける。

彼にとっては、もう10回は訪れた町。怒りや憎しみにも似た感情が、彼の心をざわつかせる。

10年前、彼の妹が親戚と共にこの地に来た時のことだ。2泊三日の予定であったはずなのに、親戚たちは一ヶ月も帰らなかった。不審に思った彼と両親が魔術を使って捜索したところ、ここに来た親戚は皆殺しにされていることがわかった。

しかし妹だけは、微弱ながら生命反応があった。しかし、一体どんな方法で秘匿されているのか、どうやっても居場所を特定することができない。

元々彼をも軽く凌駕するほどに才能のあった妹だ。魔術師が絡んでいることは明らかだった。この土地の霊脈管理をしている八塚という魔術師に頼んでも、芳しい結果は得られず、一年に一度は、彼がここに来て自分の足で探すのである。

そんな時に、八塚からの手紙が届いた。近々、この森宮で聖杯戦争なる儀式を兼ねた戦いを始める。最後まで生き残ったものには、なんでも願いの叶う願望機が授けられるとか。これがあれば、君の行方不明になった妹を探し出すのもた易いだろう、と。

彼は死に物狂いで、世界中に散らばる聖遺物をかき集めた。そして、最も強力な味方を呼ぶであろう聖遺物を選んだ。そして偽造した学生証、最低限生活するための日用品、選別した触媒、そして、両親の肩身の2つの魔術礼装をスーツケースに詰め込み、今、ここに立つ。

「ぐっ…!」

彼の右手に焼けるような痛みが走る。彼の右手に浮かんだのは、占星術に於ける金星を模した痣。これが、八塚の手紙にあった、「令呪」とやらなのか。

これが右手にある、ということは、戦いにおいて土俵に立つことが許されたということだ。スーツケースを握る手に力がこもる。

如何なる手段を用いても、必ず勝ち残る。そして、妹を救い出すのだ。彼の心が、10年分の鬱積を燃やしていく。

「結衣…今度こそ、今度こそ必ず、俺が助けてやる!」

男の名は、天城直人。


Side:Archer

偽造の学生証とちょっとした「ここに天城直人という人物がいることを疑問に思わないこと」という暗示を使って学生寮に入寮した直人は、真夜中を待ち、学生寮の屋上に潜入する。念のため、屋上へ続く道とドアには、踏み入れた瞬間急用を思い出してUターンするように魔術をかけ、邪魔が入らないようにする。地元で解体し、採集した鶏の血で魔方陣を描き、中央に触媒となるマントの切れ端を、風に飛ばされないよう慎重に置く。周りには星の加護を受けられるように占星術の結界も4つ追加で書いてある。

「閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する」

ゆっくりと、間違えの無いように、契約の言葉を組み上げていく。召喚のための魔法陣と、まわりの4つの魔法陣が共鳴し、震える。

「告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

召喚陣は周り4つの魔法陣に飽き足らず、召喚者自身の魔力をも食らっていく。力が抜け、床に膝が触れるが、構わず詠唱を最後まで続ける。

「誓いを此処に。 我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!」

一際、魔法陣が輝いた。最早まともに息をするのも辛い状態ではあるが、それでも、天城は光から目をそらさない。この戦いを、共に戦うための相棒を、この目に焼き付けんと…!

光の中に現れたのは、不思議な取り合わせの装備をした男であった。明らかに戦国武将のような格好をしておきながら、彼の背にあるのは、上物のビロードのマント。彼の肩には彼の足ほどもある長いマスケット銃、腰には後の世に残るであろう名刀。

そして、黒い長髪の下には、彼の前に立つもの全てを睥睨する鋭い眼が光っている。

「貴様が、余をアーチャーの座に現界せしめ、この力を欲すマスターとやらか?」

地の底から響くような、威圧感に満ちた声。心底震えそうになりながらも、天城は彼から目線を外さず、毅然と答えた。

「そうだ。我が名は天城直人。聖杯の寄る辺に従い、アーチャー!お前をこの世に呼び寄せたマスターだ!」

召喚されし英霊…アーチャーは、直人の言葉に返答を返さず、ただ、直人を見下ろし続ける。天城も、威圧されてはならぬと彼の目を見続ける。

彼は自分を試している。英霊とて、召喚に応じたという事は、聖杯にかける願いがあるからだ。くだらないマスターなら、令呪を使われる前に切り捨てる。ことに、目の前にいる男はそんな奴だ。絶対に、彼の眼に負けてはならないのだ!

直人にとっては永劫とも呼べる時間。それを終わらせたのはアーチャーだった。その顔に不器用ながらも微笑みを差し、フッと息を吐きつつも、未だ魔力を使いすぎて膝をついた直人に、空いた手を差し出す。

「この余から、一瞬たりとも目をそらさぬとは、小僧。なかなかにやりおるわ。立て小僧。貴様をこの焦土王、織田信長のマスターとして認めよう。」

面白がりつつも、確かな親愛を以て差し出された手に、直人は応じた。力強い英霊の手が、矮小なる魔術師を引き上げる。指の一本一本から感じられる人知を超えた力に感動しつつ、天城は口を開いた。

「心遣い感謝するよ焦土王…いや、これからはアーチャーと呼ぶべきか。共に戦おう。」

天城の言葉を、アーチャーはニヤリと笑って受け入れる。真夜中の森宮の夜景は、まるでフィルターが除かれたかのように美しく天城の目に映った。



かくして、全ての英霊は召喚された。森宮第一次聖杯戦争が、遂に幕を開く。

作品名:Fate/10 Bravery 作家名:AsllaPiscu