Fate/10 Bravely 二巻
バーサーカーが雨あられと放つ光の矢は、セイバー陣営をかなり苦戦させている。一発一発がコンクリートを穿つ威力の上、それが何十と降り注ぐ。夏華と冬麗は直撃は免れたものの、着弾の余波で戦闘不能である。
このままでは確定的にジリ貧である。秋理は氷河の鉄杖を握り直し、バーサーカーを睨みつける。
この状況を打開するには、あれを使う他ないだろう。
「セイバー、『不滅なる聖別の剣(デュランダル)』を使うのにどれくらい準備がいる?」
秋理の方にまで飛んでくる矢を弾き、躱すセイバーが、少し驚いた様子で答える。
「10秒くらあれば使えるけど、え、もう使うのか!?」
宝具は、英霊の象徴、代名詞ともいえる存在である。すなわち、これを使うということは、必然的に己の真名を晒すことになる。
故に、この序盤に宝具を使うのは、あまり好まれる手段ではない。しかし…
「相手はバーサーカーよ。あんたは後世につけこまれるような弱点はないし、それに…一撃で仕留めれば問題無い」
その言葉を聞いたセイバーの口元に、笑みが走る。飛んできた矢を弾き返し、後続の矢に当てるという神業を見せた後、祈るように聖剣を構える。
「…わかった。十秒だけ、援護を頼むぜ!」
祈るセイバーの頭上には、数十本の矢。氷河の鉄杖を構え、矢の群れをキッと睨みつける。
「Ice machine ballet!!」
秋理の周りに瞬間氷結する、矢より気持ち多めの数の拳大の氷塊。それは彼女の詠唱の終了と共に次々と超高速で飛び、寸分狂わず矢に当たる。
宝具と、連発型の魔術。当然威力は段違いだ。しかし、そのスピード、それにより空気で削れ流線型になった氷塊が致命的な矢の軌道を逸らす。秋理の周囲には、反れた矢が次々突き刺さり、砕けたコンクリートが彼女を襲う。
しかし、彼女は倒れない。5秒、10秒。セイバーが指定した時間に到達する。祈りの体勢をとっていたセイバーが、動き出した。
「ありがとう、シュリ。後はオレに任せろ!!」
光り輝く聖剣が振るわれると、まるで団扇に煽られたように光の矢がかき乱されて落ちる。遠目にもバーサーカーが狼狽えたのがわかる。そのまま聖剣をなぞると、光の刃が、更に剣身を伸長する。
「いくぜ、『不滅なる聖別の剣(デュランダル)』。あの狂戦士を討ち滅ぼす!」
それは、剣の中に、数多の聖遺物を内包する、不滅にして聖別の刃。駆け抜けるセイバーは、剣から発せられる神気により、バーサーカーの射かける矢が逸らされてかすりもしない!
「■■■■!?■■・・・!」
一方のバーサーカーの『軍神五兵(ゴッドフォース)』が変形し、大型の盾となる。大人一人覆い尽くすほどの盾を片手に装備したバーサーカーは、聖剣を携え突っ込んでくるセイバーを、真っ向から迎撃せんと、振りかぶる!
「我が聖剣に眠りし、聖なる欠片よ、狂いし戦士を討ち滅ぼせ!!」
「■■■■■■■■■ーー!!」
十分な加速を持って振り抜かれた『不滅なる聖別の刃(デュランダル)』と、全身の力を持って叩きつけられた盾形態の『軍神五兵(ゴッドフォース)』が、激突する。あまりのその衝突の激しさに、周囲に暴風が吹き荒れ、コンクリートがめくりあがり、陥没し、砕け散る。思わず己を庇う秋理。
巨大な衝撃と輝きが晴れる。秋理が土煙の中、目を細め、凝らす。
セイバーは立っていた。顔や鎧の一部にコンクリートの破片だろうか、それによって傷ついた様子はあるが、揺らがずに立っている。
そして一瞬の後、ガチョンという痛々しい音と共に、バーサーカーが地面に叩きつけられた。一拍置き、本来の矛の姿に戻った『軍神五兵(ゴッドフォース)』が突き刺さる。
「セイバー!」
セイバーが追撃を入れるため動くその前に、ふらつきながらもバーサーカーは立ち上がる。乱れた髪のためにその顔はよく見えないが、痛みをこらえているように見える。突き刺さる矛を掴むが、それを抜かず、弱々しくも、膝をつかない。
永劫にも思えるにらみ合いを終わらせたのは、霊体化してその場を去ったバーサーカーであった。
作品名:Fate/10 Bravely 二巻 作家名:AsllaPiscu