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ネイビーブルー
ネイビーブルー
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いいからさっさとおかえりって言わせろ!

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 いたずらを仕掛けてくるというよりは、本気で侵入者を排除しようとしてくるムウマやゴルバットからなんとか逃げ、いくつめかの穴を出た。これまで何個もの穴を出たり入ったりして、山を出たり入ったりしていたから、この穴もそのうちの一つなのだろうと思っていた。結構な距離を歩いたのに、未だに頂上に届かないことにうんざりもしていた。しかしそんな気持ちは、外に出た瞬間飛び込んできた赤にすべてかき消された。そこには、生死すら不明だった幼馴染が立っていた。
「レッド?」
 思わず出た声は吹雪にかき消されたが、気配に気づいたのか、反対側を向いていたレッドがこちらを向く。その表情は、少しの驚愕とそれから、いくらかの落胆に彩られていた。
「なんで、お前、こんなところに……じゃなくて、お前っ! 二年間、何してたんだよ!」
 突然の再会に頭はパニックを起こし、どうしてよいか分からなかった。自分が何を言っているのかもわからないまま彼に走り寄ると、彼はただ黙ってグリーンの顔を見返した。先ほど浮かんでいた表情はもうなくて、まるで能面のようであった。グリーンは、一瞬自分が人違いをしてしまったのかとさえ思った。彼の知っているレッドは、表情豊かな少年であった。口数が多いほうではなかったが、その代りとばかりにくるくると表情の変わる子供だったはずなのに。
「……レッド?」
 もう一度、確かめるように彼の名を呼ぶ。彼は、まるでその言葉が理解できていないかのように無反応だった。思わず腕をつかむと、微かに温かくてほっとした。グリーンは、あまり超常現象などを信じない性質ではあるのだが、その瞬間だけは、目の前の彼が亡霊か何かではないかと背中が震えたのだ。
「お前……こんなところで、何やってるんだよ」
 もう一度訪ねると、レッドはしばらく黙ったのちに、「人を待っている」と答えた。それはもうずっと、誰とも話していなかったような掠れた声だったが、確かに聞き覚えのある幼馴染の声だった。
「人?」
 不本意にも震えてしまいそうな声を隠すために短く問うと、彼は小さく頷いた。グリーンは少し考えて、「なあ」とレッドをまっすぐに見た。
「なあレッド。お前に言ってやりたいことはたくさんあるんだけどよ、ひとまず山を下りねえか。お前がどうやってここで生きてんのか知らねえけど、その格好はどう考えたって冬山にいる格好じゃねえだろ」
 すると、彼はつかんだままだったグリーンの腕をやわらかく解くと、首を横に振った。
「なんでだよ。お前のお袋さんも心配してたぞ」
 母のことを聞くと、微妙に彼の顔は曇ったが、それでも返事はノーだった。その後も何度も説得し、町に戻ってこいと言ったのだが、彼はかたくなに首を振ろうとしなかった。
「どうしてだよ」
 ついには懇願するような声色になってしまったが、グリーンが力なくそう呟くと、レッドはただ「人を待っているから」と答えた。
「そいつが来るまで、山にいるのか」
 彼は頷く。
「下りるつもりはねえんだな?」
 もう一度頷く。その様子に、分かってはいたのだが、グリーンは尋ねずにはいられなかった。
「お前が待っているのは、オレじゃねえんだな?」
 レッドは憐憫のような眼差しでグリーンを見て、それから一つ、頷いた。グリーンは肩を落とし、「そうかよ」とひとりごちた。
「もうすぐ、来る」
 黙ったグリーンに、レッドがはじめて自発的に声を発した。顔を上げると、彼はどこか遠くを見つめるような眼でもう一度繰り返した。
「もうすぐ、来る」
「待ってるやつが、か」
 前にも一度、このような眼を見たことがあるなと思った。記憶を探ると、それは何年か前、ジョウトのエンジュシティを訪れた時にそこで会ったジムリーダーの目に似ているのだと分かった。千里眼を持っているという彼は未来が見えるのだと笑い、そうだ、やはり「待っているんだよ」と言っていた。レッドにはそんな能力はないはずだし、そもそもグリーンはそういった能力の存在は半信半疑だと思っていたのだが、何も言わなかった。その代り、「風邪、ひくなよ」とだけ言い残して背を向けた。レッドが己の存在を望んでいないことは明白だったからだ。
 しかし、山の内部に戻る穴をくぐろうとした瞬間、彼が「グリーン」と小さく呼んだ。
「覚えてたんだな、オレの名前」
 皮肉気味にそう返すと、レッドは能面のような顔のまま「気をつけて」と小さく言った。……能面というのはそもそも木で作られた、何の表情も浮かんでいない面のことだ。しかし、伝統芸能の世界ではその能面を使って世界を作る。観客は、その無表情なはずの能面から様々な感情を読み取ることができる。命を持たないそれは、驚くほど豊かな表情を持つのだ。グリーンもその時、言葉にならないレッドの心を聞いた気がした。それはグリーンの存在を疎んでいないと言っているような気がした。だからグリーンはその後もちょくちょくシロガネ山を訪れては、レッドに薬や食料を差し入れて、山から下りろ、下りないと不毛な会話を交わしていた。彼は相変わらずあまりしゃべらないが、グリーンを拒絶するような態度はとらなかった。


 しかし、今目の前にレッドはいない。彼はグリーンを負かしてチャンピオンになったあの日からほんの数カ月後、突然ぷっつりと消息を絶ってしまったのだが、それを彷彿とさせるような消え方だった。
「なんでいねえんだよ」
 まさかとは思うが、山を下りたのか。ならば、もしかしたら家に帰っているかもしれないと思い、急いでポケギアを取り出して姉にかけた。姉はお隣さんであるレッドの母親と仲がよく、毎日二時ごろには一緒にお茶を飲んでいる。だから、もしレッドが家に帰ったのであれば、姉がそれを聞いているはずだ。
 だが、姉の返事は「いいえ」だった。
「おばさんからそういう話は聞いてないけど……グリーン、レッドくんのこと、何か知っているの?」
 グリーンは、この山にレッドがいることを誰にも言っていなかった。それは奇妙な感情であったが、誰にも言いたくないと思ったのである。ただ、レッドの母親にだけは教えたほうがいいのかとも考えたが、他人から息子の消息を聞いたところで彼女は嬉しくないだろうと思ってやめた。彼女が待っているのはレッドからの連絡なのだ。
 適当に会話を切り上げて電話を切ると、グリーンはポケギアを握り締めたまましばし呆然と立ちすくんだ。ピジョットが心配したように鳴き声をあげるが、その背を撫でてやる余裕もなかった。
 レッドがいなくなってしまった。何のために? この場所を知っているのはオレのみだ。ならば、オレを避けるために?
 グリーンはポケギアをコートのポケットにしまうと持ってきたマフラーを強く握りしめ、「ちくしょう」と小さく吐き捨てた。
 その時、ポケギアが大きな音をたてて着信を知らせた。こんな時に、と舌打ちしながら誰がかけてきたのか見ると、そこにはジョウトのジムリーダーの名前が表示されていた。ヒワダジムのツクシ。彼とはジムリーダー同士の交流会の時に一応連絡先は交換したものの、これまで一度も連絡を取ったことはなかったはずだ。一体何があったのかと思って電話に出ると、聞こえてきたのは柔らかい少年の声ではなく、聞きなれた青年の声だった。
「グリーン?」