ACⅤ-全てを焼き尽くす暴力-
敵ACがこちらのロック圏内に入る前に発砲してきた。
どうやら安物のこちらよりは上等なFCSを積んでいるようだ。
俺は敵を正面に捉えたまま左へ身をかわす。 何発か避けきれずに右肩にかすったが、乾いた音からしてうまく跳弾したようだ。
そのまま路地へ逃げ込み後方カメラを確認しつつシステムを切り替える。
『システム、スキャンモード』
相変わらず緊迫感のないガイド音声を聞かずに、俺は周辺にリコンを撃ち込んであたりを見回す。
スキャンモードとはその名の通り索敵モードであり、アクティブな武装の待機電力を一時的に切ることでリコンからの情報をさらに詳細に解析できる。
副産物として出る余剰ENはブースターにまわされるため、ENに余裕ができ移動にも重宝するのだ。
スキャンモード中はリコン範囲内の敵の武装等を解析できる。
俺は敵ACから距離をとりつつ解析結果を待つ。
俺のACは敵が視界に入る度に路地へ飛び込んでいるが、細かい被弾が増えていく。
スキャンモード中に武装は使えないため牽制の弾幕も張れないが、それを差し引いてもかなりの命中率だ。
これはFCSの性能ではないだろう。
ロックオンする時間は与えていないはずだ。
ということは敵はこちらが飛び込む路地をこちらの機体が見えた瞬間に予測し、同時にマニュアルで偏差射撃していることになる。
つまり、俺はこの敵には機体の性能でも、操縦技術でも劣っていると認めざるを得なかった。
素直に正面から勝負していたら…などと考える余裕はない。
敵武装の解析が終わったことをガイド音声が告げる。
内容を確認すると、オーソドックスなライフル、パルスマシンガン等、偶然にもこちらとほぼ同じ装備であった。
一つ気になるのは解析不能装備があることだが…
俺が考えを巡らせた時、敵ACが不意に正面に現れた。
俺は後方カメラを見て自分のミスを呪った。
行き止まりである。
敵ACは弾幕を張りながら迫ってくる。
そのどれもがどこにもこちらを逃がさんとする意志によるものであり、ビルを蹴ってジャンプしようものなら弾丸の雨を食らうだろう。
直接こちらを狙わないのは至近距離から確実に仕留めたいためか。
俺は自分に死が降りかかっていることを悟っていたが、同時に酷く冷静だった。
恐らくこの作戦の中でもっとも冷静な瞬間だったろう。
作品名:ACⅤ-全てを焼き尽くす暴力- 作家名:バズーカ部長