ACⅤ-全てを焼き尽くす暴力-
ガイドルートに沿って進むと、地下道へ続くトンネルが見えてきた。
トンネル内に入り、暗視カメラを作動させる。
すると、撃破されたACが何機も転がっているのが確認できた。
撃破されたACには作戦開始直前に貼られたであろう、真新しい<企業>のマーキングが施してあった。
無論、俺の機体にも貼ってある。
これだけの数のACを相手にできるのはACに他ならない。しかも、レジスタンスのACは1機しか確認されていない。
となると・・・
「・・・奴か」
俺はトンネル内を慎重に進んだ。
すると、急に開けた場所に出た。
高い天井まで伸びる柱が、部屋中に何本もそびえている。
《貴様か・・・!よくついてきてくれた・・・感謝するぞ》
通信に割り込んできたこの声は奴!!だが姿が見えない!?
「どこだっ!」
俺の声は聞こえないのか、奴は勝手にしゃべり続ける。
《<代表>!!見ているか!貴様の望みどおりだ! だがそれでも!勝ったのは我々だ!!》
その時、ふいに正面の柱の影から奴の機体が現れた。そのまま加速して突撃してくる。
俺は反射的にライフルを撃ったが、右ひじが固定されているため正確な射撃ができない。
俺はここで死ぬ、そう確信した。
だが、奴の機体が被弾して大きくよろめき、片ひざを付いた。
別方向からの攻撃?
すると、どこからともなく現れた1機の重量二脚タイプのACが、奴のACを蹴り飛ばした。
バランスを崩した状態で蹴り飛ばされた奴のACは柱に叩き付けられ、沈黙した。
奴を1瞬で倒したACから通信が送られてくる。
《ハハハハッ!見てたよルーキー!》
この声は主任?このACには主任が?
《なかなかやるじゃない?ちょーっと時間かかったけどね》
・・・俺は奴をあぶりだす為のエサだったわけか
《ま、ちょうどいい腕かな、ゴミ虫の相手にはさぁ!》
奴はどうなったのだろう・・・俺は主任の話よりそっちが気になった。
《主任?どちらにいらっしゃるのです?》
キャロルが通信に割り込んでくる。
《今行くよ〜キャロり〜ん ・・・じゃあね、ルーキー!》
主任はそういうとトンネルの出口へ去っていった。
トンネルに残された俺は、帰還ルートの確認をしていた・・・が
確かめたかった。
奴は俺に何か言おうとしていたように感じた。それが何なのかを。
・・・ACを降りて奴のACのハッチを操作する。無論、万が一に備えてハンドガンを構えたままだ。
ハッチを開くと、コックピット内に充満していた煙が視界を遮った。
体G防御を兼ねた気密服を着てなければ、焦げ臭い匂いにむせるところだったろう。
煙が晴れると、座席に力なく横たわる男が見えた。座席横のボタンに手を伸ばし、座席をコックピット外へ移動させる。
俺は奴の顔を見た。 40、50代くらいの堅物そうな男だ。
男はどうにか生きていたが、腹部からかなり出血していた。もう助からないだろう。
男はうつろな目を俺に向け、口元をにやりとさせると、搾り出すようにしゃべり始めた。
「・・・貴様に依頼がある」
「・・・何だ・・・?」
「・・・私の娘を・・・守ってやってくれ・・・」
男はそう言うと、がくりと首をうなだれた。脈を確認すると、死んでいた。
人の死に目にあうのは初めてではない。
戦場にいれば、味方の死も敵の死も、自分の死さえすぐそばにある。
だが、遺言・・・というものだろうか、それを遺されたのは初めてだ。
この男は何故俺に依頼したのだろう、自分の死を悟っていたからか?
《・・・リーダー、応答してくださ・・・》
男の乗っていたコックピットに通信が入っている。少女の声?
《・・・返事を・・・》
返事などできるわけがない。男はもう・・・
《返事をして、父さん》
!
そこで通信は途切れてしまったが、最後だけ奇妙なほど鮮明に聞こえた。
この男が俺に何を言いたかったのかは分からない。
だが、それを確かめる方法はあるんじゃないか?
俺は男の乗っていたコックピットを覗き込み、レジスタンスの合流地点を確認した。
ここからそう遠くはない。
俺は自分のACに戻ると、機体に乗る前に<企業>のマーキングを剥がした。
作戦が終わったらフリーに戻るため、簡単に剥がせるのだ。
機体に乗り込み、レジスタンスの合流地点をマークする。
俺はトンネルの奥へ向かってACを加速させた。
作品名:ACⅤ-全てを焼き尽くす暴力- 作家名:バズーカ部長