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こらぼでほすと 厳命3

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「ママのバカッッ。ママの人でなしっっ。ママ、ママ・・・私は・・・私は・・・絶対にイヤッッ。ママを私から取上げる全てのものを破壊しますっっ。」
 わんわん泣いて喚いたら、頭を撫でられた。ママは、いつもこうだ。自分を泣かせるなんてキラでも難しいのに、簡単に素のラクスに戻して泣かしてくれる。子供じみた行いをしてしまうのも、ママだけだからだ。怒鳴ったのも、前回、ママと喧嘩して以来だし、こんなに泣いたのも、それ以来だ。
 怒鳴って泣いてと暴れているラクスに胸が痛んだ。そりゃ、そうなるよな? と、ニールも思う。素のラクスは、案外と泣き虫で感情的だ。だからこそ、可愛いし心配にもなる。どうやら、自分の身体は簡単には死ねないらしい。冷凍保存して蘇生させるとまで言われたら、もう何も言えない。今は、まだ生きている価値があって、それをラクスは欲しいというのだから。
「・・うん・・まあ・・・俺さ、人でなしのバカだからな・・・・」
 力なく笑いつつママが、そんなことを言うので顔を上げて罵った。それでもママは笑っている。
「そうですっっ。ママは人でなしのバカですっっ。」
「でも、頼めるのはラクスだけだからさ。」
「拒否します。・・・・絶対に死んではいけません。」
「・・・そうか・・死んではいけないのか・・・・ラクス・クラインからの厳命とは厳しいなあ。」
「ただのラクスなら、殴っています。」
「あははは・・・今、殴られるとダメージが酷いなあ。」
「あなたの娘は過激なんです。」
「はいはい、わかったよ。それなら、どうにか生かしておいてくれ。」
「承知いたしました。宇宙に上がるまで、本宅に監禁させていただきます。」
「・・・いや・・・たまに寺に帰してくれ。三蔵さんと逢いたいから。」
「三蔵さんに来ていただきますわ。なんなら、こちらに滞在していただきましょう。」
「・・いや、あの人のメシとか洗濯が・・・」
 これから死ぬとか言ってたママは、そんな些細なことが気になるらしい。それこそ、死んだらどうにもできないというのに、庶民派貧乏性というのは面白いと、ラクスも声を出して笑う。
「死んだら、三蔵さんが怒りますよ? ママ。」
「・・・どうだろう? うちの亭主は残念だと思ってくれるだろうけど・・・それだけだと思うぞ、ラクス。」
「泣いてくださいますわ。」
「・・・あー、それはない、それは。供養はしてやるって言ってたが、泣いてやるとは言わなかった。」
「お寺で、そんな話もしていらっしゃいますの? 」
「・・・随分前に・・・約束したから・・・俺も、あの人が死んでも泣けないと思う。残念だとは思うけどさ。それだけなんだ。」
「そうですか。私は泣きますわ、どちらがお亡くなりになっても。」
「・・・ありがとう、ラクス・・・・きっと、三蔵さんも喜ぶよ。」
 ぎゅっと手を握り、その手に頬摺りをする。ごめん、と、瞳が謝っているので、どういたしまして、と、ラクスも視線で返す。
「何があっても死なせません。あなたの娘の力を信じてください。」
「・・・うん・・・じゃあ、死なせないでくれ・・・」
「お元気になられたら、私が夜のお相手もいたしますわ。」
「バカッッ、それなら、キラを押し倒して来い。」
「うふふふふ・・・・ママだけですよ? その御意見は。」
 ゆっくりと握っている手が動いて、ラクスの頬を撫でる。とても優しい目で自分を見ているママがいることが嬉しい。これがあるから強くなれるのだ。
「・・・・いい女になってきたぞ? おまえさん。アスランをプラントへでも出張らせて、その隙に既成事実を作っちまえ。」
「ほほほほ・・・そうですね。世界が落ち着いたら考えます。それまでに、もっといい女になります。」
「・・・ああ、そうだな・・・・ごめん、ラクス・・・・」
「はい、おやすみなさいませ。」
 手から力が抜けていく。長時間の会話は疲れるらしい。ニールの娘であるラクスは、ゆっくりと手を布団の中に入れて、うしっっと拳を突き上げる。生かしておいてくれ、という、ママからの言質は取った。こうなったら、何がなんでも生かしておける。やってやろうじゃないかと気分を高揚させて部屋を後にした。




 翌日から、歌姫様は体調不良を理由に、全てのスケジュールをキャンセルした。今のところ、大したものはなかったから、簡単だったのもあるが、それでもマスメディアでは大々的に取上げられている。それをニュースパックで眺めつつ、ニールは溜め息をつく。隣りには、パジャマ姿の歌姫様が、ごろごろしているからだ。ニュースでは、かなり深刻なことが報道されているが、その当人は、健康そうな顔色でニールの広いベッドを転がって遊んでいる。後で、大変なことにならないのか、そちらのほうがニールには心配だ。
「・・・ラクス・・・おまえ・・・」
「体調不良は事実です。ただいま、私は、『ママがいなくなると泣いてしまう病』を発症しているのですから。」
「そうそう、僕も、『ママがいないと眠れない病』なんだ。」
 ちゃっかりとリジェネもパジャマ姿でソファに座っている。予てからの約束通り、ティエリアにヴェーダとのリンクを断ち切ってもらい、ここにやってきた。リジェネも現れて開口一番、怒鳴り倒したので、歌姫様とも意気投合してしまった。どちらも、延々とニールの悪口を語り倒し、それからニールのいいところも語り倒した。おまえらはバカか? と、ニールは呆れていたが、どちらも、「ママバカで何がいけない? 」 と、同時ツッコミ返しをしてきたほどの仲良さ加減だ。
「ラクス、これ、チェック終わったから、サインして。」
「まあ、リジェネ。ヴェーダとリンクしていなくても優秀ですね? 」
「わぁー何気に失礼だな。こんなチェックぐらい簡単だ。」
 もちろん、仕事がないわけではないので、執務机と端末を持ち込んで仕事はしている。現在、キラたちがヴェーダへと出向いているから、ラボも臨戦態勢だが、こちらは静かなものだ。ジェットストリームな護衛陣も、ラボのバックアップに従事しているから、歌姫様は外出もしない。
「ママ、漢方薬の時間。」
 リジェネは、以前と同じように時間になると、クスリを配達する。こればかりは拒否できないから、ニールも渋い顔はするが飲み干す。コップを受け取り、ミネラルウォーターの入った新しいコップを渡してくれるリジェネは、まだ左手が包帯のままだ。ヴェーダとのリンクは切ったから、僕は、ただのはぐれイノベイドなんだよ? と、言われてニールのほうも絶句した。リンクが途絶えたティエリアが大混乱して、しばらくは精神的にも不安定になったことを経験しているからだ。それなのに、リジェネは、とても陽気に過ごしている。大したことじゃないよ、と、当人は言うが、イノベイドにとって根幹を成す部分だ。それを断ち切って、看護に来てくれたことが嬉しかったし、そんなふうに心を開いてくれたことがニールを優しい気持ちにしてくれる。泣いて喚いて、死んだらダメ、と、リジェネも怒っていた。これには応えなければならない。
「リジェネ、俺が治ったら遊びに行こう。」
「はう? 」
「遊園地とか水族館とか・・・海でも山でもいい。身体が治ったら、どこへでも付き合えるだろうから。」
作品名:こらぼでほすと 厳命3 作家名:篠義