図書館戦争 堂x郁 郁記憶喪失(堂上視点)
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翌日から、少しずつではあるが、郁の様子がおかしいことに気が付いた
例えば、手塚との会話の中で「教官達」と言っている
記憶を無くした郁は、教官呼びではなく階級呼びになっていたハズだ
だが良く考えてみれば、同室の柴崎は未だに俺達を教官呼びしている
もしかすると、柴崎に感化されて無意識に教官と呼んでいるのかもしれない
記憶が戻ったのなら、まず一番に俺のところへ来くるだろう
無くしていた期間の記憶があれば、胸倉を掴み怒鳴ってくるだろう
または、完全に無視を決め込むか・・・郁のする行動のことだ、どこかでダダ漏れが発生するハズ
しかし、俺達に接する態度には違和感がない
記憶はまだ戻ってないと考えるのが妥当だろう
そんなことを考えていると、24日を迎えていた
今日はクリスマスイブ
郁はミニスカサンタコスチューム(柴崎案)を着て、利用者の子供たちとクリスマス会をしている
何故ミニスカなんだ!と怒ったところで、黒き魔女柴崎に勝てることは出来ず
頭痛のする頭を抱えながら、クリスマス会の警護にあたっている
このイベントでは、不埒な奴は沢山いる
写真撮影禁止の看板を出していても、携帯で盗撮バリに狙ってくる
クリスマス会が始まって2時間と経っていないが、既に3名の不埒ものを確保している
今日と明日を乗り切れば、正月に入り少しは図書館も落ち着くだろう
俺は気合を入れ直して、郁達のクリスマス会を眺めていた
午前の部が終了し、遊戯室から子供ずれの親達が出てくる
最後に郁と柴崎が出てきて「お疲れ様でぇ〜す」と柴崎が声を掛ける
郁も「お疲れ様です!堂上一正!小牧一正!」と声を掛けてきた
一番最後に疲れ切った手塚がトナカイの格好で現れた
なんだか半日でやつれた様に見えるのは気のせいか?
午後は他の業務部の女子が郁に代わり、読み聞かせを始めた
郁はスーツに着替え、今は堂上とバディを組み図書館内を巡回中だった
「きゃーーー置き引きよーーーー」
館内に響く女性の声
素早く周りを見渡すと、一人の男性が図書館の出入口に向かって走っている
「笠原!」と声を掛けると、堂上の視線の先を確認し自慢の俊足で犯人を捕らえる
「おりゃ」と声が聞こえれれば、ドターンと音が鳴り響き「容疑者確保!」と
犯人の背中で両腕に手錠を掛けている郁の姿を捕らえる
「良くやった!」堂上が郁に声を掛け、頭をポンポンとすると、郁は若干困惑した表情を見せた
一瞬堂上は怪我でもしたのか?と思ったが、すぐ郁が立ち上がり何事も無かったような素振りを見せるので
気にせず「調書を取るぞ!笠原ついて来い!」と声を掛けた
犯人を警察に引き渡し、残りの時間は再度館内警備にあたっていた
そろそろ時間だな・・と時計を確認し、「戻るぞ!」と声を掛け隊舎に続く廊下を二人歩いていた
17時も過ぎれば、外は暗く隊舎へ続く道は永遠に続く暗いトンネルのようだった
クリスマスイブは仕事だが、郁と二人で食事でも取れればと考えていた数カ月前が懐かしい
堂上が訓練速度で歩いていると、急に背後の気配が遠ざかった
振り返ると、少し離れた場所で郁が立ち止っている
堂上は「どうした?」と言って、郁の傍に近づくと
「堂上一正はお付き合いしてる方が居ないんですよね?」と真剣な眼差しで堂上の目を捕らえた
堂上は「・・・ああ。居ない」と答え「藪から棒に何を言ってるんだ?」と郁に話しかけた
「・・・いいえ。気になったので確認しただけです。すみません」と言って歩きだした
堂上は通り過ぎる郁の左腕を取り、「待て!」と引き留める
郁は腕を掴まれたまま、堂上を振り向かず止まった
「何か聞きたいことがあるなら言え!」と言うと
「別に何も・・・今日はクリスマスイブなので柴崎とデートかな?って思っただけです」
お付き合いしてなくても二人っきりで食事に出れば、デートですよね?などと言う
「お前は・・・」と一言呟くと、堂上は掴んでいた郁の腕を離し、頭をガシガシ掻き始めた
「何故そこで柴崎が出てくる?俺は予定なんぞいれとらんぞ?」
それとも何か?俺と柴崎が付き合った方がお前はいいのか?と続けざまに郁に問いただす
郁は肩を震わせながら「違う・・」と言い、堂上に振り返った
目にはいっぱいの涙を浮かべ、頬は赤く染まり、唇はぎゅっと噛みしめられていた
堂上は「何故泣く?」とポツリと言うと、郁は堰を切ったように 怒鳴り付けた
「堂上教官は彼女居ないんでしょ!私のことなんて全然好きじゃないんでしょ!
勝手に私の知らない間に消滅して別れてるなんて酷い!教官なんて大っ嫌い!!」
郁は来た道を逆走して行った
「ハァ?なんだ?・・・記憶・・・戻ってるのか??」
一旦、堂上は軽く頭を振り「なんだ・・・そうか」と苦笑いすると、インカムで小牧に遅れることを連絡し、郁の後を追った
作品名:図書館戦争 堂x郁 郁記憶喪失(堂上視点) 作家名:jyoshico