図書館戦争 堂x郁 郁記憶喪失(堂上視点)
当の郁は机に突っ伏し、スヤスヤと眠っている
「不可抗力だよ。仕方ないよね?」と言って伝票を取り会計をしに行った
手塚はチラッと堂上を見ると、堂上も「仕方ない」と言って立ち上がった
柴崎は郁の荷物を持ち、座ったまま堂上の顔を見上げた
「別に堂上教官が笠原を運ばなくてもいいんですよ?
同期同僚同班の手塚もいますので」
とわざと言うと、手塚は「おい!柴崎!」と言って柴崎の手を取り席を立たせた
「何よぉ〜」と言って手塚に引きずられながら個室の外に出る
堂上は苦笑いをし、郁の傍に近寄った
郁は何事も無かったように寝ている
「笠原?おい、笠原?」と声を掛けると、郁がん〜と薄ら目を開けた
「寮まで送って行くから、とりあえず掴まれ」と言って堂上は背中を郁の方に向けた
郁は自然な流れで堂上の首に両手を回し、おぶさる状態になった
堂上はそのまま郁を抱え、店を後にした
*
外に出ると、さすがに冷え込んでいた
柴崎は堂上の背中に眠る郁に、コートを掛け「寒くないのかしら?この娘は?」と言って
郁の頬をつつく
郁はふにゃりと笑い、またスースーと寝息をたてた
基地へ帰る途中、小牧は「俺、今日は実家に戻るから、また明日ね?」と言って別れた
柴崎と手塚は前を歩きながら、話している
堂上は背中のぬくもりを感じながら、昔に戻った気分だなと考えていた
柴崎がコンビニの前で立ち止まる
「堂上教官、私コンビニに寄ってきますので、そこの公園で待ってて頂けますか?」
と言うと、手塚の手を引きながらコンビニの中に入って行った
堂上は「おい!」と声を発したが、柴崎には届いていなかったようだ
仕方なく、近くの公園に行き、自販機付近にあるベンチへ郁をそっと降ろした
ミネラルウォータと缶コーヒーを購入し、郁の隣に腰掛ける
暫くすると、郁の頭が堂上の左肩に傾いた
堂上はそっと郁の顔にかかる髪を左手で払い、寝顔を見つめた
上官と部下だった時から酔った郁をよくこの公園に連れてきた
最初は王子様だなんだと寝言を言う郁を『今の俺を見てくれ』と心底思っていた
『あの三正はもういない』『俺はお前の憧れの三正ではない』などと・・・
付き合い出してからは、デート帰りに寄った
ベンチに腰掛け、最後の甘い時間を堪能していた
『離れたくない』『離したくない』
『出来ることなら郁を閉じ込め、誰の目にも触れさせたくない』
『お前の目に映るのは俺だけで十分だ』
そんな自分勝手な思いを抱きながらも、郁を大切にまるで宝物に触れるように接してきた
だが、今の郁は違う
「過去に囚われているのは俺か・・・」
誰に言うでもなく、堂上はポツリと呟くと、郁の頭が少し動いた
「起こしたか?」などと思い、郁を見ると何やら震えるような小さな声で寝言を言っている様だ
堂上は耳を澄まし、郁の寝言に耳を傾ける
「・・・堂・・上・・教官・・・」
「・・・置いて・・かな・・いで・・・」
「っ・・・」
郁の言葉に堂上は息をのんだ
寝言とは言え、郁は”堂上教官”と呼んだのだ
ツーと郁の目じりから涙が零れる
美しい・・・とても綺麗な表情
「郁・・・・」
そっと郁の頬に触れ、親指で涙を拭う
郁は覚醒途中なのだろうか?少し唸った後、薄らと目を開けキョロキョロし始めた
「気が付いたか?」堂上がそう郁に声を掛けると、
慌てながら「すみません。私寝てました?」と言って身なりを整え始める
堂上は「ん」と先ほど購入したミネラルウォーターを郁に渡した
「ありがとうございます」と言って、郁は水を口に含み「ふぅー」と息を吐いた
堂上は「今柴崎がコンビニに寄ってる」と言って、缶コーヒーを開けゴクりと飲む
目覚めた郁は、何事もなかったように振舞う
さっきの寝言は俺の妄想だったのだろうか?
そっと郁の横顔を見つめる
先ほど拭った涙の後はもうない
二人とも無言のまま時は過ぎた
頃合い良く、コンビニに寄っていた柴崎と手塚が近づいてきた
「堂上教官、お待たせしました。あら?笠原お眼覚め?」と言って郁に近づき
行きと同じように右腕を郁の左腕に絡ませた
寮の玄関に着くと、「明日は10時に共同ロビーで待ってます」と言って
柴崎は郁を連れて女子寮へ戻って行った
「堂上一正、お先に失礼します」軽く堂上に頭を下げ「ああ。休めよ」と言うと
手塚は男子寮に向かって行った
堂上は財布を出し、自販機でビールを買い、ロビーのソファーにドカッと腰掛けた
消灯時間前の為、ロビーには人気はなかった
照明も半分落され、若干薄暗い中で堂上は天井を見つめ先ほどの郁の涙を思いだしていた
作品名:図書館戦争 堂x郁 郁記憶喪失(堂上視点) 作家名:jyoshico