十七物語
高三の春は、二人が一番幸せだった時かもしれない。
映画を見たり、買い物をしたり、デートの内容はありふれたものだったが、二人は幸せだった。
毎日一緒に、自転車で下校したりした。
だが高三にもなると当たり前の問題が二人に立ちはだかってくる。
進路のことである。
女は進学を希望した。
が、男は少し変わった道を選んだ。
「音楽で食っていきたい」
実際、男のバンドは結構名前も売れていたし、その筋からの誘いもあるらしかった。
だが、バンド内はそれで揉めた。
進学する者、親の後を継ぐ者……。みんな真剣に音楽にうち込んではいたが、あくまでも趣味の範疇を超えていなかった。
男はそれが不満だった。
「俺らだったら、どこまでもいけるって!」
過剰すぎる男の熱意が、徐々にバンド内での男の立場を孤立させていった。
そしてバンドは解散する。
音楽以外に生きる道を持たない男にとって、学校は意味のあるところではなかった。
ほどなく、男は学校を辞めた。
半ば勘当された形で家を出、アパート暮らしを始めた。
未成年では書類は通らないので、名義を偽造しての一人暮らしだった。
そんな暴挙とも言える男の行動を、生来気の強い女は諌めた。
「ちゃんと両親に謝って、家に入れてもらお? 学校にもちゃんと……」
男のことを思っての、必死の説得だった。
だが男は、女の予想だにしなかった事実を告げた。
「えっ……」
耳を疑った。
男が生き急ぐのには、そんな訳があったのだ……。
〝Acquired Immune Deficiency Syndrome〟
それが男が冒された病気の名前だった。