十七物語
生きるには金がかかる。家賃、食費、電気水道ガス代……。それらは全て、男のバイト代で賄わなければならなかった。
「自分も学校を辞めて働く」女は言った。が、男はそれを頑なに拒んだ。
自分はこんな風になってしまったけれど、せめて、彼女だけにはまともな人生の道を歩んでほしい……。
少なくとも高校くらいはちゃんと卒業してほしい。
それが男の望みだったから、女は学校に通い続けた。
だが女の、身重の体は、やがて隠し切れなくなる。
「……ねえ見て……あの人だよ……」
「えーっ! うっそ、しんじらんなーい」
無責任な噂話、周囲の好奇な視線に晒されても、女は怯まなかった。
(ふんっ……別に、悪いことしてるわけじゃないさ!)
平静を装った。
それに、彼女の友人やクラスの仲間たちは、みんな彼女に優しくしてくれた。
荷物を持ってくれたり、代わりに当番の仕事を引き受けてくれたり、彼女の身体に負担のかかるようなことは、一切、彼女にやらせようとしなかった。
みんな、とても、優しかった……。
……でも前だったら、
「お前さー、そんな体で学校とかきちゃっていいわけ?!」
とか、軽口叩いてくるから、そしたら私も、
「あんたこそ、最近ちょっとお腹でてきたんじゃないのー? もしもしぃー、何ヶ月ですかー?」
とか悪ふざけし合ったり、できるのに。
ねえ、みんな……
そんなに風に、優しく
よそよそしくしないでよ
お願いだから
前みたいに、
あたしと普通に接してよ…………
季節は進み、クラスメートたちの話題は受験や就職、進路のことでいっぱいになった。
女が休学届けを出したのはそんな頃だった。
いろいろあって休みがちだった今年、この先、また長い休みを取らなければならないことを考えると、このまま通い続けても出席日数は足りそうになかった。
休学はやむを得ない選択肢だった。
だが。
通おうとすれば、身体的には、もうしばらく通い続けることは可能だった。
届出は少しだけ早く行われた。