Act.7 「Big Deal」~Kizuna~
「助けてやるから!しっかりしろ、おい!」
ジェイスに連絡をとれば、なんとかなるかもしれない。
自分の仲間がこれ以上犠牲になるのは嫌だ!
だが、浅沼の手から力が抜けていく。ゆっくりと、目が閉じられていく。彼を抱えたまま、音もなく地面に降りると、撃はそっと彼を地面に横たわらせた。
ホントに、自分は無力だ……
「やっぱり、撃くんが相模原キャンパスにいたのは偶然じゃなかったんだね」
どれくらい経ったのか、自分に話しかける声に顔を上げる。厳しい顔をした真が目の前に立っていた。
「自分ももう少し早くここの異変に気づいていればよかったんだけれど…」
「……いえ……俺がセンパイに正直に話をしていれば」
「撃くんのもと同僚、か」
「はい。あ、そうだ、依月はどこに?」
「ドルギランに保護したよ。今はどこへ行っても彼女にとっては危険だから」
「そう、ですか……」
ようやく少しだけ安堵した顔になる。ドルギランの中だったら安心だ。あの場所は誰にもわからないはずだから。
「きみもわかっていると思うけれど、自分も前にここで襲われて大けがを負ったからね。この相模原キャンパスが狙われているのは、はっきりとわかったよ。ドルギランの警戒システムもこの周辺に重点を置くことにした」
「でも、奴らは何を狙っているんだ?俺には、どうしてもそれがわからない」
撃の問いに少し考えてから真は、
「もしかしたら、依月さんが知っていることかもしれないね?」
と答えた。自分としても、何がどうなっているのか、あの大雨の日、なぜあの場所に自分がいたのか……はっきりとした「答え」が出ているわけではなかったから。
あの時、撃が来てくれなければ本当にどうなっていたのだろう?
いずれにしても、依月にも話を聞かなければならない……
ドルギランのコクピット、通信システムが「着信」を知らせる。
慌てて整備室から走ってきたセイラは、システムを立ち上げると、どこから入ってくるのかをまず確認した。
「あれ?この信号って……もしかしたら私が少し前に出したものかしら」
少し前、返事があるかどうか悩みながらも送信してみたものがあったのだが、それに関する返事のようだ。スイッチを入れると、目の前に立体映像が立ち上がる。
『よう、久しぶりだな、セイラ』
「キャプテン・マーベラス!」
真っ赤なジャケットを着たひとりの男が椅子に座ったまま、姿を現した。
彼の名前はキャプテン・マーベラス。広い宇宙の海を渡り歩く「宇宙海賊」のリーダーだ。
『返事に時間がかかっちまったのは詫びるぜ』
「いいえ、こちらこそいきなりの通信文だったから。よかった、ちゃんと届いていたんですね」
セイラの言葉に、マーベラスはニッと笑った。笑い方は相変わらずだ。
『早速だが、連絡をもらった件な、例の地球から飛び立った宇宙船が破壊されたのは、あれは事故なんかじゃなくて立派な「事件」だ』
やっぱり……と、セイラは思った。1年半前に地球で起こったスペースシャトル爆発事故。やはり、あれは事故ではなく事件。銀河連邦警察やセイラ達が考えたことに間違いはないようだ。
『ただ、どこのどいつが宇宙船を狙ったのか、までは俺たちも把握できてねえ。ひとつ言えるのはかつての宇宙犯罪組織マクーとやらの残党がいるってことだ。決して全滅したわけじゃねえってことだな。あんたたちの長官殿もそれは言っていただろ?今、ジェイスやおまえさんが相手にしているのはその残党であることは間違いない』
「ええ」
1年半前、銀河連邦警察では地球担当官が「空席」のままだったことはセイラも知っている。この事故のことを詳細に調べたくても、どうしてもできない部分というのもあったのかもしれない。だから、こんなにまどろっこしい状態になっているのだが。
立体映像のマーベラスは軽く両手を自分の前に組んで、話しを続ける。
『ジェイスに大怪我を負わせたヤツと、その爆破事故は決して関係がないわけじゃないと思う。パターンが似ているってことだし、気をつけるに越したことはないな。それと、ジェイスのコンバットスーツが使い物にならなくなった理由も俺たちでちょっと心当たりがある。こっちも今、調べているところだ』
「そこまで調べてくれているんだ。ありがとう」
セイラは小さく頭を下げた。
宇宙海賊たるマーベラスとのやりとりは、銀河連邦警察側のほとんどは知らないはず。他の者に知られたらとんでもない騒ぎになってしまう。そのことはセイラは充分、理解している。マーベラスたち「ゴーカイジャー」が、なぜ地球にいるのかの理由はわからないが、決して自分たちと敵対しているわけではないことも確かだ。むしろ、良好な関係と言ってもいい。
『なぁに、気にするなって。俺たちもなにかわかったらまた連絡する。ああ、それから……』
と、マーベラスは身体を起こした。
『十文字撃、あいつにも今回のことは気をつけろと伝えろ。今回の事故の犯人たちが、たったひとり生存しているあいつを知っているかもしれねぇし、これからバレちまうこともあるかもな。いずれにしても注意するに越したことはないぜ、宇宙刑事のパートナーさん』
「え、なんでマーベラスが撃さんのこと、知ってるの?」
『ま、細けぇことはそのうちに。とにかく、気を付けるに越したことはないぜ』
確かに……今まであまり考えていなかったけれど、その可能性は充分考えられる。たぶん、口にはしていないけれど、シェリーも心配しているはずだ。
『じゃあな、また何かあったら連絡する。ジェイスにもよろしくな』
「本当にありがとう、マーベラス。ほかのみなさんにもよろしく伝えて」
『ああ』
フッと目の前の立体映像が消えて、少し静かになった。さきほどまで読んでいた通信文と合わせて、セイラはジェイスにどうやって伝えようかと考え始める。
ジェイスのコンバットスーツの件、科捜研からまだ連絡がないのもとても気になるし……でも、マーベラスたちもなにか心当たりがあるとか。話しがいくつか同時進行しているな、と思って顔を挙げたとき、ドアの向こうからシェリーが顔を出した。
「セイラ?」
「あれ?シェリー……依月さんは?」
「うん、大丈夫。今は眠ってるわ。少し深く眠ってもらったほうがいいよね?」
「あんな場面に遭遇したんだものねぇ…」
ジェイスの機転で、相模原キャンパスからドルギランに依月を保護。混乱している彼女には、しばらくはここにいてもらうことになりそうだ。状況が状況でもある。
シェリーは少し戸惑ったような表情でセイラの隣にあった椅子に腰かけた。セイラは読みかけていた書類に再び目を通したが、シェリーが話しかけてきた。
「ね、セイラ、今の通信の相手は?」
「ん?ああ、ジェイスと私の知人よ。大丈夫、怪しい人じゃないわ」
いや、充分怪しいと思うのだが……
「でも、随分威圧的っていうか、なにかエラそうっていうか」
「あー、あれが彼だもの」
と、思わず苦笑する。そうか、シェリーは知らないみたいね、キャプテン・マーベラスのこと。
「そのうちにシェリーも彼に会うこともあるかもね。ジェイスもよく知ってるわ。でも、見た目で判断するのはどうかな?」
作品名:Act.7 「Big Deal」~Kizuna~ 作家名:じゅん