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Act.7 「Big Deal」~Kizuna~

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「俺は……とにかく、友人が…遠矢がやり残したことを少しでも達成したいだけなんだけれどな…」
ぽつんと、撃が呟いた言葉にジェイスは顔を挙げた。だが、息を引き取る直前の浅沼が言っていたことを、あえて撃は黙っている。
 少し視線を遠くへ投げて、撃は誰に言うともなく……
「遠矢が言っていた「夢」を、俺が全部叶えることはできないけれど、でも、同じ場所を目指したんだ、子供の時から。俺と遠矢と、依月と…」
ジェイスは、撃の横顔を見て、彼がどれだけ親友の死を悲しみ、さらに仲間たちを失った悲しみをひとりで背負おうとしているのか……それを察しようとしても、自分には到底、わからない部分というのもあるだろう。
「Adventureは軌道に乗る直前、爆破された……当時はなんだかさっぱり、わからなかった。ただ、気が付いた時には、俺はひとりだけ、宇宙空間に放りだされていたということだけはわかったんだ。声を出そうにも声は出ない。周囲を見ても、何も……ない。ただ、青い地球だけが遠くに見えた。俺は遠矢を探したんだ。だけど、いなかった。どこにも。仲間たちの姿もなかった……そのうちに自分の意識も朦朧としてきて、そのまま気絶してしまった」
そうか、その直後にギャバンとミミーが彼を発見して、助けたんだとジェイスもわかった。
 親友や仲間たちとの「別れ」、自分だけが生き残った「重責」……ほかにも、色々なものが撃にはのしかかっているのだろう。そして、なによりも「親友」遠矢の「大事な人」であろう……依月に、何も言えずに今まできたこと。このことも、彼にはかなりのことではなかっただろうか。
 撃たちが乗ったスペースシャトル「Adventure」を爆破した謎の人物。相模原キャンパスを狙っている連中、そして自分に大怪我を負わせたのは……
 ひとり、考えていたジェイスに撃が話しを続ける。
「ジェイス先輩、俺はコンバットスーツを纏って戦うことは、まだ許されていないんだ」
そうだ、コンバットスーツ。まだ手元に戻ってきていない。
 撃も、正式には候補生であり、今回はテストパイロットとして赴いているということになっている。今回の行動は、ジェイスと共にすることによって、許可されているというカタチだ。ジェイス自身にも初めてのことであり、戸惑うことは多い。だが、これも自分が前に進むためのもののひとつだと、ジェイスは思っている。
「コンバットスーツについては、セイラや銀河連邦警察の科捜研の人たちが全力で調べているけれど、まだ明確な答えは出てこない。これだけ答えが遅いのも異常だとは思っているけれどね。だけど、戦うっていうのは別にコンバットスーツを着ることだけじゃない。依月さんのことを守ることも「戦う」ってことにならないかな?確かに、マクー帝国の奴らとの戦いにはコンバットスーツは不可欠だ。でも、それだけじゃない。少なくとも、今の撃くんには依月さんを守る「使命」がある。彼女が研究しているものも含めて……守らないといけないんじゃないのか?それが、あの事故で亡くなった遠矢さんたちに対する「救い」にもならないのか?」
ジェイスの顔を見て、撃はしばらく言葉を失う。
「だけど……どうやって……俺は依月に顔を合わせればいいんだ?合わせられるわけがないだろ?だって、俺はNASAの公式見解では、死んだことになっているんだぜ?今更……」
まだ何かを迷う撃に対し、ジェイスはついに自分の気持ちを抑えきれず、思わず相手の胸倉を掴んで、自分の顔の傍に彼を引き寄せて怒鳴った。
「だけど、依月さんを守るのは、あんただ!僕じゃない、撃くんなんだっ!諦めるなよっ!」
ふだん、おとなしいジェイスからは考えられない、激高した表情だった。
 相手に対して怒鳴るというのは、ジェイスにとっても初めてのこと。それだけ、今の彼の気持ちは撃に対しての「怒り」というか……ジレンマを感じているのだ。
 わかってほしい、気づいてほしい。
 今、依月を守ることができるのは、ここにいる撃だけなのだ、と。
 目の前で……自分を叱咤激励してくれる相手を、撃はじっと見つめた。
 どこかで見たことがある、その眼を見つめる。

「なぜ、諦める?なぜ、自分を認めようとしないんだ?今のおまえには……今のおまえにしかできないことが必ずあるはずだっ!諦めるんじゃないっ!」

 リフレインする……自分の記憶の中で。
 いつか聞いた声が。
 ジェイスの声と……シンクロする……

「……ギャバン、長官……」
「え?」
「同じ声だ、あの時の長官と……同じ声、同じ目、だった、今……」
「……」
ふっと、手を緩める。撃は少し咳き込み、ジェイスの手を軽く払った。
 真っ赤になった眼は、なにかを訴えようとしている。涙があふれてきた。
 ジェイスから顔をそむけ、泣いている顔を見せないようにしようと思ったのだろうが、声が震える。
「依月を守るのは……今は…」
ぐぐっと拳を握り、絞り出すような声で。
 目を閉じる。深呼吸する……
 しばらく言葉を探していたジェイスは言った。
「今は、依月さんを守ること。それが撃くんの「仕事」だ。親友の大事な人を守ること……」
「センパイ」
「もちろん、相模原キャンパスの人たちも守らねばならない。僕たち宇宙刑事の仕事だ。日本の大事な研究拠点のひとつをやつらに壊されるわけにはいかないしね。撃くん、これが「初任務」。わかってるよね?大事な人たちを守るのは、宇宙刑事の仕事のひとつ。だから、今は前を向いて、最善を尽くそう」
立ち上がり、手の甲で顔を拭い、まっすぐにジェイスを見た撃は、言葉もなく頷いた。


 不思議な部屋だな……と、依月は改めて室内を見回す。どこか無機質な感じがする室内だ。自分が実験などで利用する室内になんとなく似ている気がする。
 あれからどれくらい経ったのか、相模原キャンパスはどうなっているのか……あ、早く戻らないと自分の仕事も詰まってきてしまう。でも、あの夜に起きた出来事は、果たして本当のことなのだろうか?それすらもわからなくなってきている自分が、依月は怖かった。
「ここ、ホントにどこなんだろ…」
と、ドアが軽く開く音がしたので振り向くと、入ってきたのは。
「真くん?!」
「あ、びっくりさせちゃいました?すみません」
手にしていたトレイをベッドの傍らに置いて、にこっと笑う。
 彼が着ている服は、銀河連邦警察の制服だ。無論、依月には見慣れないものである。
「制服?……真くん、それって……どこの?」
依月は目を丸くした。今まではラフなスタイルの真を見ていたわけで、今、目の前にいる彼は、彼女が見たこともない服を着用しているのだから。
「きちんと話を通したほうがいいかと思ったので」
と、真……ジェイスは姿勢をただし、改めて依月を見た。
「僕は銀河連邦警察、太陽系第三惑星・地球担当官。本名はジェイスと言います。地球の人たちは僕たちの存在はほとんど知らないと思いますが、銀河連邦警察はこの太陽系を中心にして、太陽系が含まれる全銀河系の警備や平和のために動いている組織です。ここは僕の活動拠点の宇宙船、ドルギランの中ですよ」
「ぎんが……けいさつ?」
作品名:Act.7 「Big Deal」~Kizuna~ 作家名:じゅん