Act.7 「Big Deal」~Kizuna~
候補生、か。懐かしい言葉だと、ジェイスは思った。自分もアカデミーを卒業して、地球にやってきたんだ。自分自身もまだ一人前とは言い切れない。
目の前にいる青年は、まっすぐな眼で自分を見ている。
セイラとシェリーから話は聞いているけれど、ホントにまっすぐに人を見るヤツだな……と、ジェイスは思った。たぶん、この「眼」に、父さん……ギャバンは何かを感じ取ったのかな。
【……アカデミーの授業、受けていてどう感じる?】
「体力は自信ありますけれどね、違う重力の中で動き回るのは相当きついっす。バード星の重力には、最初、驚きましたよ。座学では、これでも元・宇宙飛行士ですから、理解するのに少し時間がかかるくらいで。でも、その内容量がすごいですね。地球で行うもののさらに倍以上はあるんじゃないのかと」
そうか、宇宙飛行士ということであれば、それ相応の人物のはずだ。一見、そうは思えないところが撃という人物の「面白み」なのかもしれない。
【……将来は、やはり太陽系方面の担当官になるつもりかな】
「そうだといいんですけれどね、俺にはまだ先がわからない。でも、ひとつだけ、どうしても解決したいことがあって……」
きゅっと口元が引き締まる。
久しぶりに再会した「いとこ」でもあるシェリーから少し聞いている。彼が乗ったスペースシャトルが「謎の事故」に遭い、乗っていた乗組員は、彼以外がすべて亡くなったこと。その中には、撃の親友がいたこと……
【乗っていたシャトルの爆破事故……だね】
「ええ……」
【もしかして、今回、テストパイロットに志願したのは……そのこともあった?】
ジェイスの単刀直入な質問に、撃は静かに頷いた。彼の鋭い目つきがさらにきつくなる。
「亡くなった仲間たちのためにも、原因をつきとめたい……それだけだ」
【……】
「今は、少しでもその原因に近づければいいって思っているんだ。先輩、もし、なにかわかれば……教えてほしい。どんなことでもいい。少しでも……」
彼の言葉、それは切実なもの。大事な仲間を失ったこと、たったひとり、生き残ったこと。撃は、これからもそれらを背負って生きていかなければならない。
【わかった……でも、今は自分の状況を考えればなにもできないよ】
悔しそうに言うジェイスに、撃が言った。
「自分も、なくしかけていた命を、助けてもらったバード星の最新鋭の医療ですよ、どれだけ進んでいるかは、バード星人である先輩もわかっているんじゃないですか?」
確かに、バード星の「医療」というは地球のものよりも何倍も何十倍も先に進んでいる。損失した、または損傷した自分の身体の一部も、ほとんど「元に戻っている」といってもいい。
ふっと、撃は笑顔を見せて、ジェイスに言った。
「あー、そういえば、先輩たちにも新しい制服が支給されると連絡があったなぁ」
【新しい制服?】
「俺が着ているものの色違いになるんじゃないのかな、これだけど」
と、彼は自分が着ているものをあらためて指でさして示した。
カプセルの中の「羊水」が完全に抜かれる。
ゆっくりと目を開けて、口元に取り付けていたものをはずすと、艦内の、ひやりとした空気が顔にあたった。身体を起こして、鍛え上げられた全身を確認する。傷はひとつも残っていない。四肢も完全に戻っている。動かしてみると、違和感もない。
「よしっ!」
気合を入れ直し、ジェイスは立ち上がった。
真新しい制服。
新しい「制服」……白が基調。ジェイスのカラーは「ライム色」である。
ジャケットの襟、袖口もライムカラーがあしらわれ、左胸と左上腕部には金の生地に黒ラインで銀河連邦警察の意匠が入っている。また、ベルトの真ん中にも同じくそれが入っていた。両肩には「階級章」。タック式スラックスの両脇にもライムカラーのラインが入っている。
「……うーむ、着慣れない…」
真新しい制服に身を包んだジェイスは、自分の姿を見て、思わず唸ってしまった。
「似合うわよ、ジェイス」
と、顔を上げると、そこにはやはり新しいタイプのスーツを着たセイラがいた。
彼女のカラーはパステルオレンジがメインであり、あとは白・銀色のラインが入っていた。そのスタイルはシェリーとの色違い。彼女の胸元には「レーザービジョン」もある。今まで気にしていなかったが、彼女のそれは薄いオレンジ色の輝きを放っている。また、左手首には例の特別装甲=ブラスター内蔵=を施したブレスレットがはめられていた。
それぞれが、銀河連邦警察から送られてきた新しい制服だ。
「セイラも新しい制服になったのか」
「うん」
「久しぶりに制服って着るなぁ……」
「最近は地球人の私服に慣れちゃったものねぇ」
と、ふたりで話しながら、撃とシェリーのいる部屋へ行く。
「お、着替えましたか」
ジェイスが着用しているものの色違い……撃は、スカイブルーのラインが入った制服なのだ。
「あ、セイラ、そのデザイン、あたしと色違いなんだ」
「かなり身体にフィットしているのね、これ。それに、私、このタイプのヘッドセットって初めてなのよ」
「通信用のコンデンサも入っているから、慣れると便利なんだけれどな」
などと雑談を交わしていると、目の前にあったパネルが光った。4人はすぐにおしゃべりをやめると、パネルの前を見つめる。立体映像の姿が現れたのは、ジェイスや撃と同じ、やはり新しいタイプの制服を着たギャバンであった。
『おお、ジェイス、セイラも制服が間に合ったようだな』
「ご心配をおかけしました」
スッと姿勢をただし、ジェイスが言う。ギャバンはジェイスの姿を認めて、静かに頷いただけだった。何も言わずとも、互いの意思は通じているといわんばかりの表情だ。
それから、となりにいたセイラに言った。
『セイラ、例のコンバットスーツについては、まだ判断がつかない。ラボの担当者も首を捻っているそうだ』
「……やはり、そうですか」
『早急にデータを集約せねばならんのだが、これもまだ時間がかかりそうだ』
「そうですね。こちらでも解析は進めます」
『うむ。さて、撃、シェリー。今回は突然のことに驚いたと思うが、本当に助かった。ありがとう』
「いえ……当然のことをしたまでです」
それまで黙っていた撃とシェリーは、ギャバンの言葉に表情をひきしめた。
「ジェイス先輩が無事でよかった。間に合って良かったです。本当に」
穏やかな笑顔で、ギャバンは撃を見る。その表情は、銀河連邦警察最高責任者としての表情なのか、それとも……
が、そのあとにもう一度、表情を変えて、彼は言った。
『撃、シェリー。前から希望があった件だが、ふたりの地球滞在を許可する。しばらく、地球に滞在し、ジェイス、セイラと共に行動するように』
「えっ?おじさ……ギャバン長官、それって、どういうことですか?」
シェリーが思わず声をあげた。少し間を置いて、ギャバンは続ける。
『撃、きみが我々の星へ来るきっかけになった事件は覚えているね?その件で、少し気になることがわかってきたんだ』
「なんですって?」
「え……」
ジェイス、セイラ、撃、シェリーは息をのむ。
作品名:Act.7 「Big Deal」~Kizuna~ 作家名:じゅん