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Act.7 「Big Deal」~Kizuna~

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「ま、そういうわけではないんだが…アメリカに住んでいたっていうなら、NASAのことも知ってるよね。最近は日本人宇宙飛行士もたくさん選出されているから」
「そうですよねぇ」
「ちょうど1年半前かなぁ……このJAXA公開日のあたりだったか、悲しい事故があったんだ」
え……?
「6人の宇宙飛行士が犠牲になってね。その中にはふたりの日本人がいた。有望なふたりだったそうだよ」
「パパさん、それって……」
真自身は言葉が続かない。だが、にこっと笑って、誠一は続けた。
「ひとりは見つかったが……もうひとりは、未だに行方不明とか」
「あ……」
「今はどこで何をしているのか……もしかしたら、空の彼方にいるのではないか、なんてね」
「パパさん、どうしてその話を?」
「この間、君が少し留守をしている時、セイラちゃんがしばらく塾の子供たちを見ていただろ?その時、訪ねてきていた青年がね、そっくりなんだよ。私もちらっとしか見ていなかったが、横顔なんかはよく似ていたな」
げ、あの時のことか。なるべくわからないようにと夕方にしていたとセイラが言っていたけれど。
 しばらく言葉を探している真を見ていた誠一は言った。
「動くのであれば気を付けないといかんな」
なにかある、気をつけろというのを遠まわしに言っているのは真にはわかった。誠一の中にいる「もうひとりの男」とともに、何かを伝えようとしているのだろう。
「あなた、時間、大丈夫?」
「おっと、そうだったな」
わかばに声をかけられた誠一は時計を見て、残っていたコーヒーを口にすると立ち上がった。気づけば、太一も春香も立ち上がって、学校へ行く準備をしている。
 バタバタ……歯磨きをして、もう一度顔を洗って……
「行ってきまーす!」
太一と春香のふたりが声を揃えて玄関から元気に飛び出していく。
「行ってらっしゃい」
「気を付けてねー」
最後に玄関を出て行こうとした誠一が、再び真に言う。
「私にもなにか出来るかと思う。いつでも声をかけてくれよ」
「ありがとうございます」
うむ、と小さく頷くと、カバンを抱え、ドアの向こうへと出かけていく。
 3人を見送ってから、わかばがちょっとだけ安堵のため息をついた。
「さて、と……私もこれで朝ごはん食べられるわ」
「あ、ママさん、お洗濯ものは私が干しますね」
「そう?じゃ、お願いするわね」
「はーい」
元気よく返事をして洗濯機のある脱衣所へと行ってしまった。
 真も一旦、キッチンに戻ってから、残っていたコーヒーを口の中へ流し込む。
 パパさん、わかっているんだな、撃くんのこと……
「真くん?さっきから何を考え込んでいるの?」
「え、あ……大丈夫ですよ。ちょっと仕事のこと、考えていたから」
わかばが不思議そうに顔を覗き込んできた。慌てて顔をあげて、真はつとめて明るく返事をする。わかばに心配をかけたくない、その気持ちが強いから。彼女は、夫である誠一の「正体」を知らないし、真やセイラの本当のことも知らない。ましてや……烈のことも知らないのだ。いつか知ってしまう時はくるだろうが、それまでは。
(もう少し調べてみるか)
adventureのことや撃、遠矢たちのこと、もう少し調べてみる必要はあるな。



「今日もどこかへ出かけて行っているみたいね」
テスト宇宙船のコクピットで、シェリーが軽くため息をついた。
 地球滞在が許されてから数日が経っている。昼夜問わず、撃の姿が見えなくなることに、シェリーは少し不思議に思っていた。彼のことだから、あまり詮索されるのは好きではない……ということは彼女にはなんとなくわかってはいるが……
 とはいうものの、帰ってくれば何かを調べているというのも知っていた。あえて、彼が何かを調べている時は声をかけないようにしている。興味はあるけれど、でも撃に怒られるのも怖いしなぁ……でも、気になる。
「ちょっと探してみようかな」
少し考えてから、シェリーは宇宙船の外へと出てみた。
 かなり山奥に着陸させていることもあるけれど……木々の間からこもれびが射し、鳥が鳴いているのがわかった。バード星独特のスーツに身を包んだ自分が、緑に囲まれた山の中を歩いているのはちょっと異様かなと思いつつ、だが、しばらくすると立ち止まり、思わずボヤいてしまった。
「ああん、もう!これじゃいつ、街に行けるかわからないわ!」
と言って、胸にあったものに手をあてる。
「レーザービジョン!」
その声と同時に、シェリーの姿はレモンイエローのインコに変身!
【この方が楽ね。空からも街が見下ろせるし】
空を飛ぶのも気持ちいいし……と、少し高度を上げて、木々をすり抜け、シェリーは街へ向かって飛ぶ。
 だけど、なんでこんなにも、撃のことが気になるんだろ?
 単なる宇宙刑事のパートナーとして(というか、自分たちはまだ半人前以下だけれど)、彼が気になる……のかなぁ?自分でもよくわからないな、などと思いつつ、シェリーは懸命に羽ばたいて街へ向かった。


 シェリーが撃に出会ったのは1年半前、ギャバンとミミーがとある件からバード星に戻ってきた時のことだ。
「宇宙空間を漂っていた、地球人の青年を保護したのよ」
という話をミミーから聞いたシェリーは、その青年が収容された時、同じ銀河連邦警察管轄の某施設にいた。バード星以外の人間をあまり見たことがないシェリーは、興味半分で……ミミーに頼んで、彼の様子を見に行ったのが最初だった。
 超低温・無重力状態、そのほか危険因子が飛び交う宇宙空間に長く晒されていたからだろうか、ボロボロになった身体の青年を見たとき、一瞬だが、シェリーは恐怖さえ感じた。だが、その「心」の声を、シェリーは確かに「感じ取った」。純粋なバード星人であるシェリーは、人の心を感じ取る能力が元から備わっている。
『死にたくない……まだ、死ぬわけにはいかない……』
完全に意識がないはずの地球人の青年の「心の声」が、シェリーには感じ取れたのだ。
 その後、自ら進んで、シェリーは青年の看病を始める。最初はそれらを止めようとしたギャバンやミミーたちだったが、シェリーが黙々と取り組んでいる姿勢を見て、いつしか誰も彼女の行動を妨げようとはしなくなっていった。
 意識が戻らない地球人の青年……十文字撃と、唯一、心を通わせることが出来たのは、シェリーだけだったからだ。
 撃の「無意識の中の意識」を時々感じながら、シェリーはぎこちないながら、献身的に寄り添った。
(撃……やっぱり、事故のこと、調べているんだろうな)
地球に来てからの彼は、いつも険しい顔をしている。シェリーはそのことがとても気になっていた。


【あれ?ここ、確か、ジェイスたちがいるおうちだっけ】
やっとの思いで街中へ飛んできたシェリーは、とある家を見つけた。この間、撃と一緒に来たんだっけ。
 小さな羽根を羽ばたかせ、彼女は最上家の2階ベランダの手すりに降り立った。
【誰か、いるかな?】
風に翻る洗濯物の間から部屋の中を覗き込むが、姿が見えない。少し考えてから、もう一度、羽ばたいて、今度は3階のとある部屋の窓へ飛んでみた。
【あ、ジェイス!】
作品名:Act.7 「Big Deal」~Kizuna~ 作家名:じゅん