【ヘタリア・腐】きっと見つかるGGm8!【西ロマ】
スペインでからかわれた仕返しと、ロマーノはニヨニヨとした顔で突っ込む。イギリスの殺人料理はその危険さからあまり外で披露されることは無く、慣れる程食べるには彼の家に行く他無い。つまり、子供の台詞は相当遊びに行っているという告白になる。
「いや、その……イギリスはシー君の味覚を破壊した慰謝料をよこせですよこのやろー!」
羞恥に耐え切れなかったのか、シーランドはロマーノの口癖を真似て叫ぶとホバリングで遠くに逃げて行った。ここにきて新たな装備を見てしまい、ロマーノは突っ込むかどうか悩んでしまう。思わず隣のイギリスを窺えば、彼はシーランドの「慣れている」という台詞に胸を熱くしているようだった。
「イギリスの料理が特に問題なく食えるって凄ぇな……」
ついそんな感想が口を出る。言った後やばいと気付き取り消そうとすれば、イギリスは「まぁ、料理は愛情だしな」と斜め上の解釈をしていた。
「そ、そうだ……な」
世の中には愛情でカバー出来ないものもある。ベラルーシのロシアへの感情とイギリスの料理は世界のツートップだとロマーノは思っていた。
だがそんな言葉は飲み込み、ここは兄弟仲良しでなによりだと思っておく。
(ま、これで少しは想われているって気付けるだろ)
一歩でも歩み寄れたらよし。ちょっといい事したなと気分を良くし、そういえばとイギリスにフレンド登録を申し出る。ご機嫌なイギリスは二つ返事で応じてくれたが、これを使う時は彼の弟達に困ったときだけという残念な事実は口が裂けても言えなかった。
「あー、腹減ったな……」
更に言えばどっと疲れた。色々な奴と会えたものの、突っ込み疲れて頭も肩も痛い。ロマーノはぐっと背のびをして軽く体を解すと、邪魔にならないようにゲーム内のキャラを道の端に寄せて席を立った。なんだか酷くトマトが食べたい。
食事を終え、さて続きでもしようかと席に戻る。確認したものの携帯に恋人からの連絡は無く、やっぱり今日は会えないようだ。
暖かいコーヒーを机に置き、しょんぼりとした気分で画面を覗き込む。道の端で立っているキャラの傍でうろうろしている人影に気付き、ロマーノは思わず椅子を引いた。
「え、何だよコイツ……」
チャット画面を見れば、自分が居ない間に何度か話しかけられているらしい。返事が無い時点で席を外していると気付いて欲しいが、さてどうしたものか。
めげずに話しかけている男は、いかにもレベルが高そうな騎士。顔を仮面で隠し、日本の漫画に出てきそうな格好をしている。
「こういうの何つったっけ……ええと。ちゅう、ちゅうぼうじゃなくて……」
日本が目を輝かせながら最高と叫んでいた気がしたが、どうにも思い出せない。謎の男の名前を確認すれば、そこには『白と黒の暗黒の騎士』とあった。
「意味わかんねーよ」
白なのに暗黒なのかよ。
また突っ込みさせられるのかと、癖になったように溜息が出る。逃げるにしても動かない訳にはいかず、仕方なくロマーノは怪しげな騎士に反応してやった。
「……席外してた。何だよ?」
「うわっ! あ、いや、その、なんだ」
急に動いたせいか、目の前の男は異様に驚く。用が無いならさっさと逃げようと退路を確認していると、目の前の騎士は「フレンド登録をしよう」と言ってきた。
初対面の相手とフレンド登録。する理由が見つからず、しかも相手はこんなに怪しい行動をする男だ。まさか油断させておいてPKする気か。思わずロマーノが身構えると、騎士は慌てたように手を振った。
「おに、いや、ロマーノは見た所クレリックのようだな。まだ俺は回復役に知り合いが居ないので、時間の都合がつけば時々クエストに同行して貰いたいと思ったのだ」
「はぁ……」
軽く見た感じでいえば、この騎士と自分はかなりレベルが違う気がする。初めて会う格下のクレリックに同行を頼まなければならない程、彼は何か特殊な事情持ちなのだろうか。
考えれば考える程怪しく、じり、と足が後ろに下がる。そもそも人見知りする上、男相手に愛嬌をふりまく趣味は無い。恋人のスペイン相手にすら出来ない事を、初対面の怪しげな相手に出来る気がしなかった。
「ご、ご遠慮させて頂きますだコノヤロー」
危険人物に関わってしまったと、変な汗が吹き出る。視線を巡らせ辺りを伺うが、話しかけられないよう席を立つときに人通りの少ない道を選んだので誰も通りかからない。
「そんな事言わずに、なっ?」
ロマーノが一歩下がれば、相手が一歩足を動かす。どんどん追い詰められ、ついに背中に壁が当たった。袋小路の行き止まり、しかも人通りは無いという惨状。
(助けろスペイン!)
これが女キャラだったら犯罪だろと半泣きになりながら拒絶し続けるが、相手の騎士も引き下がらない。何が彼をそこまで駆り立てるのか分からず、思考は混乱で回らなかった。
怯えながら首を横に振るロマーノに慌て、騎士は「け、契約でもいいぞ!」と提案する。ごそごそと何かを取り出す仕草をすると、白い装備を取り出した。
「先払いだ」
広げた装備は、クレリック用のローブ。かなり入手困難であることと、その形の可愛らしさから非常に人気のある防具だった。今装備しているものよりも遥かにいい装備に、ロマーノの心がぐらりと揺れる。
「変なことさせる気じゃねーだろうな……」
アカウントを消されるような犯罪行為に巻き込まれるのはごめんだ。怪しい男認定している言葉にぶんぶんと首を振り、白と黒の闇夜の騎士は本当にクレリックが必要なのだと訴える。変な動きだが裏は見えず、少しだけロマーノは警戒を解いた。決して装備に釣られた訳ではない。
「……ヤバイことはしねーからな」
「ああ。一緒にクエストに行ってくれればいい」
レベル差があるにも関わらずこの低姿勢。もしかしたら、この変な名前のセンスで友達が出来ない可哀想な奴なのかもしれない。失礼なことをつらつら考えながら、ロマーノはまぁいいかと了承した。今日みたいにスペインが居ない時に暇を潰せるのなら、それもいいだろう。
「わーったよ」
目の前に出された装備を受け取り、フレンドカードを送信する。騎士からカードを送られるのを待っていたが、暫く経っても返答が無い。目の前の騎士は先程までの動きが嘘のように固まり棒立ちをしていた。
(フリーズでもしてんのか?)
ヘタリアファンタジアはアメリカの高画質グラフィック趣味が反映され、パソコンに結構なスペックを要求してくる。ギリギリのパソコンで遊んでいると時折フリーズするのだと、以前スペインが話していた。彼もそうなのかもしれない。
「おーい」
何度か声を掛けてみるが、やっぱり反応は無い。一応こちらからはカードを送ったので、何かあればそれで連絡を寄越すだろう。その時にこの男からのカードを貰えばいい。
「俺、今日は行くから。じゃあな」
画面の向こうで騎士を操作する男が弟に「ゲームは一日一時間!」と怒られているのも知らず、ロマーノは路地を出て行く。一応何度か声は掛けておいたので、後でログを読めば逃げたと思われないだろう。
作品名:【ヘタリア・腐】きっと見つかるGGm8!【西ロマ】 作家名:あやもり