【ヘタリア・腐】きっと見つかるGGm8!【西ロマ】
少しでも感謝した自分が馬鹿だった。画面の向こうでロマーノが痛む頭を押さえている間、兄妹の口論はヒートアップしていく。
「猫より兎じゃぁ」
「いいや、猫の方が可愛いしロマーノに合っとる!」
「垂れ耳の兎耳は正義。これは日本のお墨付きやざ」
この戦いは昔からで、基本二人は仲のいい兄妹だがこれだけは譲れないと争っている。猫派対兎派の戦いをまだやっているのかと呆れ、ロマーノは酷く懐かしい気持ちとぐったりとする気持ちで突っ込んだ。
「お前等どんだけ自分の趣味に正直なんだよ……」
まだオランダが同居していた頃、ロマーノの服を巡り二人は幾度も対立をしていた。猫の刺繍を押すベルギー、兎の模様を押すオランダ。ロマーノがあまり服装に拘らなかったせいか、兄妹の着せ替え人形になっていた過去がある。
スペインからメイド服を着させられていたロマーノには女物で無ければいいという最低ラインの望みしかなく、そもそもこういうのがいいとおねだり出来る立場でも無かった。
ただ与えられるものを着、貰えなかったら諦める。
そういう事だと、今まで支配されてきた中で理解している。なのに、ベルギーやオランダはお互いの趣味に走ってはいるがロマーノの為に色々と選び、スペインは笑ってそれを許可していた。
自分の為に、何かをしてくれる。
自分を想って考えてくれる。
三者三様の残念な趣味に突っ込みつつも、内心は泣きたくなる程嬉しかった。今まで与えられなかった暖かい気持ちはロマーノの中に染み渡り、じわじわと内から変えていく。
「ロマーノも嫌なら嫌って言った方がええよ?」
悔しそうに震えるベルギーに「うちはロマの味方やで!」と力説され、苦笑しか返せなかった。兎耳も猫耳も、どちらも同じだけ恥ずかしいとは言えず、二人が喜んでくれるならどちらでもいいとも言えない。
でも、たぶんどちらも嫌だと言っても、二人は怒らないだろう。我侭を怒られはしても嫌われず、許されているという環境は暖かい毛布のようにロマーノを包みこむ。
初めての心安らげる世界をくれたのは、優しい兄と姉、……そして背後で見守っていてくれる男。
「俺、用が出来たからおちる」
頭をかき、オランダに下に降ろせと彼の頭を叩く。
「次はこれに似合うケープ用意しとくわ」
頭の兎耳を視線で指し、オランダはそう言いながら放してくれた。よく分からないがきっと可愛いものなのだろう。兄の外見に似合わない趣味に突っ込むことなく、ロマーノは苦笑して応じた。何だかんだ言っても優しい兄には弱いので、結局着てしまう未来が見えている。
「まったなー!」
先程までのいがみ合いが嘘のように、満面の笑みでベルギーが手を振る。そんな二人に「またな」と告げると、ロマーノはゲームの終了をクリックした。
「……よし、行くか!」
パソコンの電源を切り、飲みかけのコーヒーも口の開いたスナック袋も放置して服を着替える。一応携帯を見るが着信もメールも無し。でも知ったものかと家を飛び出す。
何処か出掛けたい訳じゃない。ただ、傍に居たいだけ。
そんなささやかな願いを叶えて欲しい。
走ったせいか恋人不足のせいか、ロマーノがスペインの屋敷に辿り着いた時には息が切れていた。肺が痛い程の呼吸を何とか落ち着かせ、額に浮かんだ汗を腕で拭う。心を決めるように大きく深呼吸をすると、いつもより乱暴にドアを開けた。
「おじゃましますだコノヤロー!」
屋敷に響く声で叫んだせいか、奥の方から何か倒れたような音がする。きっと眠い中デスクワークをしていたスペインが、驚き椅子を倒したのだろう。
以前も見たことがある姿を想像して笑い、ズカスカと奥へ歩いて行く。途中ちらりと時計を確認し、お腹をひと撫でした。
「仕事しってか? アホスペイン」
「ろまーのぉ……」
仕事部屋のドアを開けると、案の定床に転がったスペインと散乱した書類が迎えてくれる。情けない声で名前を呼ぶ顔に笑うと、「腹減ったからメシ作る」と言って体を反転させた。
慌てて止める声を無視し、早足で部屋から離れる。徐々に熱が篭る頬を両手で叩き、ロマーノはキッチンへ逃げ込んだ。
(あ、あ、あ、……アホか俺は!)
久しぶりに会ったせいか、自分の名前を呼ぶ声を聞いただけでぐっときてしまった。嬉しさと安堵で涙が浮かぶ程に。
「メシメシっと……」
パタパタと顔を手で仰ぎながら冷蔵庫を開ける。先程のスペインの顔色からすると、ろくに食べていなさそうだ。少し胃に優しいものにしようと考え、メニューを組み立てる。元気の元であるトマトを使い、暖かいスープを作ることにした。
常備させているパスタを茹で、ちゃっちゃと夕飯を作っていく。最後のスープが出来上がり、味を確かめていると背後から抱きつかれた。
「ちぎっ!?」
「ええ匂いや~……」
危うくおたまを取り落としそうになり、慌てて小皿に置く。背後からの襲撃者はぎゅうぎゅうと抱きついたまま、ロマーノの首筋に鼻先を埋めていた。
「テメー、何の臭いかいでるんだよっ」
体を捻って逃げようとするが、ガッチリと締まった腕は逃亡を許さない。走ってきた為に汗臭い筈だと嫌がっても、スペインは放さなかった。
「ああ、ロマや~。本物のロマや~」
「はーなーせっ! つか本物って何だよ!」
偽者なんか居るかと怒るロマーノに苦笑し、スペインはようやく腕を少しだけ緩める。それに素早く反応したロマーノが頭を殴ろうと体を反転した所で、また腕は閉じられた。
「はいはい、ぎゅっとしような~」
「うっとうしいんだよ、こんちくしょうめ!」
「ロマ充電~」
まったく話を聞かないスペインに脱力し、ロマーノは体をスペインに預ける。首筋に埋まる恋人の髪をくすぐったく思いながら、こっそりとこちらも臭いをかいだ。
(スペインの臭い、体温……)
じんわりとした暖かい想いが胸から溢れ、自分を包む少し高い体温が体を温めていく。何度か拳を開け閉めしていたロマーノは、恐る恐る腕を伸ばしスペインの背中へと回した。
(会いたかった)
まるで何年も会えなかったように胸は痛みを訴え、手が、体が、スペインを感じる度に癒されていく。安心したせいか涙腺が緩み、隠すようにロマーノはスペインの肩口へ顔を押し付けた。
「……でも、どうしたん?」
ちゅっと頬にキスを贈り、スペインが腕にきつく恋人を抱いたまま問う。メールには「いいから仕事しろバカ」と書いてあったと苦笑され、ロマーノは頬に熱が篭るのを感じた。
会いたいから来た。そんな言葉を言えればいいのだが、羞恥が邪魔をする。何と言おうかもごもごしていると、ふとゲーム内でシーランドとイギリスが争っていた事が頭をよぎった。
「あ、会いたいから来ちゃいけねーのかよっ……」
コチコチに固まった胸の言葉を必死に取り出し、嫌いじゃないんだと告げる。仕事を優先しろと言ったものの、会いたくない訳じゃない。それを何とか伝えようとロマーノは思った。
(死ぬほど恥ずかしいっ……!)
作品名:【ヘタリア・腐】きっと見つかるGGm8!【西ロマ】 作家名:あやもり