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いつものあなた

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(……あれは獲物を見る目よ……!!)
 アンナはフイッと目を逸らして、数歩後ろに下がった。
 巻き込まれてはかなわない。
 ウォルターは何も気付かない様子で話し続ける。
「安心しろって。ちょっと触られたとか、下半身見せられただけっていうから。おまえも男なんだからそれくらい平気だろ? あんまり変なことになりそうだったらその前に捕まえるから。ちゃんと守ってやるからさ!」
 ニッといい笑顔で言い切った。
『…………』
 チーン。
 この部屋を埋める重たい沈黙。
 あれ? と笑みから力を抜いてぽりぽりと頬をかくウォルター。
 アンディはともかく、アンナまでもが黙りこくってしまっている。しかもなんか離れている。
 あれ、俺なんかマズいこと言ったか……? と今さらながらに焦り出す。
「……ウォルター」
 ぽそっ……とアンディが久しぶりに口を開いて小さな声を出す。
 名前を呼ばれたウォルターは、反応が返ってくることに喜んで、『え? なに?』と期待を込めて隣を見る。
 ズゴゴゴゴゴゴォッ……!!
 地獄から魔物が這い上がってくる時はきっとこうだろうというような黒い殺気が部屋に満ち満ちて。
 『え? え?』と慌てるウォルターの目の前に立ったアンディがキッと顔を上げて。
 カッ! と見開かれた目が無感情に自分を見つめるのをウォルターは見た。
 そう、無感情だ。もはや怒りも悲しみも浮かべてはいない。ただ、ただひたすらに、殺意だけを持って。
 これから行うべきことを行うという固い決意だけで。
 『ん!?』とウォルターの笑みが凍りつき、冷や汗が頬を流れる。
「あっ……あの、アンディ……?」
「おまえに言ってやりたいことはいっぱいあるけど……」
 地の底から響くような低い声が震えて吐き出される。
 微かに開いたアンディの口から。
「それよりもおまえの言葉を聞いた方がいいよね、何しろ遺言だからさ……」
 『えっ!?』とウォルターが身をのけぞらせる。
 死亡フラグ立ってた!? いつのまに!!
 ズモモモモモモッ……。
 アンディの真顔がウォルターに近付けられる。
 スウッ……と目が細められて。
「さぁ、なんて言い遺す……?」
 ウォルターは両手を胸の位置にあげて遮って、涙目でぶんぶんと首を横に振る。
「ちょっ……待っ……待てっ、アンディ! 俺はまだ死にたくなっ……」
「そう。その言葉墓に刻んであげる。安心していきなよ……」
「……ギャーッ!!」
 ドスッ、ゴスッ、バキッ、ドカッ。
 アンナは目の前で繰り広げられる光景から顔を背け、ぎゅっと目をつぶり、耳を手でふさいで、しっかりと口も閉じる。
 『ウォルターはまだ死にたくなかった』、と。そんな言葉の刻まれた墓石がここに立つわけね。
(一応ウチの会議室だから困るんだけどな……)
 そんなもの立てられたら迷惑だ。
 この部屋で死者を出されるのも。
 でも止めない。自業自得だし。ウォルターが悪い。
 しばしの間待ってアンナはおそるおそる耳から手を離し、ゆっくりと目を開ける。様子をうかがいながら。
 部屋は静かになっていて。
 ギギギギ……と嫌々ながら首をぎこちなく動かしてそっちを見る。
「……」
 ぽかんと口を開ける。
 フーッ、フーッと荒い息をしている仁王立ちのアンディ……その拳は固く握られている……と、その足元に倒れている赤い髪の男。
 ウォルター、完全に沈黙。
「アンナ」
 くるっとアンディが振り向く。
「あっ、ええっ、なにっ!?」
 ビクッとするアンナ。
 足が自然と扉の方を向く。何かあったら逃げよう、と。
 いつもの無表情に戻ったアンディが、スタスタとアンナに近寄り、静かに低い声で言う。
「こんなことやっぱり早く終わらせたいから……頼むよ。なんとか見られるようにして。普通に女子学生に見えればそれでいいからさ。……ちょっと直してよ、この格好。もちろん、ちゃんとお礼はするよ……執行部の誰かが」
 アンディの視線がチラと背後のウォルターに移る。
 『うおおおおっ……』と苦痛のうめき声を上げながら床に伏せて震えているウォルター。
 あ、生きてたんだ……と、アンナは思う。
 でも、容赦なくこの上お金までむしり取る気だ、アンディは。
 さんざんね……と哀れみを込めた目を送る。
 でも、おかげでアンディは冷静になったみたいだし。
「あ、でもそれなら……」
 言われたことをちょっと考えて、アンナは口を開く。
「執行部の取り締まりでこの間問題のあった動画研究会が潰されたよね。あそこが使ってた新しいパソコン欲しいなぁ」
「わかった。かけあってみるよ」
 横流しをあっさりと了承……まあ請け負ったのはかけあうことだけだが……したアンディ。
 それなら……とアンナは会議室の机の上に置いていた紙袋の方に向かう。それを持ってアンディのほうに掲げて見せた。
「私に任せて!! ちゃんとバッチリ変質者に狙われるように可愛い女の子にしてみせるから!!」
「……」
 ぽかんと口を開けてアンナを凝視していたアンディがまたうつむいてぷるぷるとし出す。
「あ……アンナまでヒドい……」
「えっ、ちょっ、アンディ? やだ、泣かないで!?」


作品名:いつものあなた 作家名:野村弥広