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こらぼでほすと 厳命8

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 伝わらないなら伝わるまで言い続ければいい。額縁の向うにあった景色は、自分にも作り出せるものになった。家族として一緒にイベントを過ごせる兄と亭主が出来たのだから、そうしたいと思う。天涯孤独ではなくなった。両親と妹はいないが、兄だけは生き残った。疎外されることのない相手だ。だから、ライルの気持ちも受け取って欲しい。
「・・・・よくわからないけど、まあ、ありがとう。」
「今年の年末は無理だけど、いつかクリスマスを家族で過ごそうぜ。」
「家族っていうか、うちは大所帯でパーティーなんだが? 」
「それでもいいんだ。・・・ほら、手が止まってる。完食しろ。」
「おまえこそ、もっと食え。・・・そういえば、刹那は差し入れを食ってくれたのか? 」
「ああ、忘れてた。『美味かった。』って。」
「そうかそうか。なら、明日、ちょっと作るから、おまえ、あっちに戻る時に持って行ってくれ。」
「ドクターが許可したらな。」
「お菓子作るぐらいで叱られないさ。」
「じゃあ、そのスープ、完食な? 元気だって言うなら、それぐらい朝飯前だろ? 」
「・・・ライル・・・」
「飯が食えないのは半病人だ。」
「痛いところを突いてくるなよ。」
「なんだ? 兄さんは半病人なのか? それじゃあ、菓子作りなんてできるわけないよな。」
 ニールの眼の前にあるスープ皿は、まだ半分以上が残った状態だ。食欲が湧かないと、おざなりに手をつけるだけなので、ここいらでライルが憂さ晴らしついでに強制する。ちっっ、と、兄は舌打ちして、スープを口に運ぶ。双子は、どちらも負けず嫌いだ。片割れから言われて、できないなんて言えない。そういう部分は壊れていないらしい。
「おまえこそ食えよ。」
「もちろん、俺は元気だから完食できる。・・・・ちょっ、待て。それだけで終わるつもりだろ? 他も食え。」
「これで一杯一杯だってぇーのっっ。こっちのは食っていいぞ? 」
「はあ? それは、あんたの分だろ? 俺に無茶ブリすんな。」
「無茶ブリしてんのは、おまえだ。」
 ほんとに、もう、と、ニールは、とりあえず手近のサラダを少し口にする。ニールの前に並んでいるのは消化の良さそうなあっさりしたものばかりだ。対して、ライルの前には、きちんとしたフルコースばりのメニューが並んでいる。最初から、食事は一緒に、と、看護士に指示を受けた。眼の前でライルが食べていれば、それに触発されてニールの食事も増えるかららしい。
「魚食べる? あーん、しようか? 」
「いらねぇ。それなら、これ、いらないか? ほら、あーん。」
 ニールのあっさりとした蒸し物を差し出されて、ぱくっと口にする。食事は、どれも美味しい。さすがに天下の歌姫様のお抱えシェフは一流だ。
「材料の味が、よくわかる。」
「だろ? 特区って世界中の食材が揃ってて、いろいろと楽しめるんだ。だから、おまえも遊んで来ればいい。」
「だからぁー独りで食事すんのに、そんな豪華なもんは面倒だって。そういうのはさ、あんたが具合が良くなってから一緒に行こうぜ。」
「随分、先の話になるぞ? 」
「来月の末に、俺はもう一度、短期間、こっちに降りて来る。その時は? 」
「ん? なんでだよ? 次は刹那だろ? 」
「忘れてんのか? 特別ミッションがあるだろ? あれ、今回は俺も参加命令が出てる。」
 来月の末に、店の上得意様の貸切イベントがある。今回は、双子一緒に拝みたい、と、その上得意がリクエストを出した。そのために今回の地上降下も二週間ギリギリの日程になっている。
「ああ、あれか。」
 そう言われて思い返してみると、前回の時に、ニールもそう言われていた。本気だったらしい。
「そう、あの女。クラウスも呼んだんだぜ? 」
「クラウスさんも? あの人、忙しいんじゃなかったか? 」
「スケジュールは、先に押さえられてたから出てくる。・・・その時に、ちょっとデートしようぜ? 兄さん。」
「出してもらえればな。」
 ダブルオーのトランザムバーストを浴びるまでは、軟禁します、と、歌姫様から宣言されている。実弟とデートしたいと言っても、許可をくれるか微妙だ。
「そこは、兄さんのたらし能力で、ひとつ。」
「ねぇーよっっ、そんなもんっっ。おまえ、俺のこと、なんだと思ってるんだ? ホストはしてるけど、そんな技術、持ち合わせちゃいねぇーよ。」
「いやいや、あんたがウルウルと上目遣いに頼めば、あの歌姫も頷くって。」
「・・・・それ、キラのマネだろ? 俺がやっても効果はない。」
「そうかなあ。一度、試してみれば? 俺のは効果あるぜ? 主にクラウスとかクラウスとか・・・」
「刹那には? 」
「あると思うか? 」
 想像して、ニールも大きく息を吐く。たぶん、刹那は、「どうした? 目でも痛いのか? 」 と、素っ気無く尋ねてくるだろう。情操教育というものの大切さをニールもひしひしと感じている。
「・・・ごめん。どうも、そういう教育を失敗したみたいだ。」
「いや、ストレートに言えば通じるから困ってはいない。」
「まだ、修正の余地はあると思うんだ。・・・なんとかしてくれないか? ライル。」
「それは、おかんの仕事だろ? 女房の担当じゃねぇーな。」
「そうかなあ。誰でもいいと思うぜ? 」
「いや、俺が刹那に情操教育とか無理だから。」
「おまえのほうが学はあるじゃないか。」
「教養と教育は別物だろ? それなら、人生経験は兄さんのほうが上だ。いろいろとやらかしてるんだろ? 」
 にへっと口元を吊上げて笑ったら、実兄が困った顔になる。推測の範囲ではあるが、ライルなんかよりディープな経験は積んでいるはずだ。
「役に立たない人生経験だと思うぜ。」
 ニールは苦笑しつつスープを平らげた。まあなあ、と、ライルも、それ以上にはつつかない。
「でも、エイミーに算数を教えてやるのは上手かったろ? 」
「おまえは結論だけ言うから、エイミーは怒ってたんだ。過程を説明しなきゃ理解できないんだよ。」
「答えから導き出せばいいことだ。エイミーは、兄さんが構ってくれるのが嬉しくて、甘えてただけさ。あいつ、理解してても兄さんに教えてもらいたがってたもんな。」
「でも、教えるのも楽しかった。」
 過去の話も淀みなく話せるようになった。互いが離れるまでのことは、わだかまりはない。共通の記憶を持つ双子にしかできない会話だ。
「だいたいさ、エイミーは俺のことは軽んじてたんだ。俺のこと、『ライルくん』って呼んで、兄さんは『兄さん』 だった。」
「同レベルで喧嘩するからだろ。折れてやればいいのにさ。」
「俺は誰に対しても全力で立ち向かうのが信条だ。」
「そんな大層な話じゃねぇーだろ? ほんと、ややこしい可愛がり方なんだから・・・・素直に可愛がってやればいいのに。まあ、エイミーには説明しておいたから、ライルのことも大好きだったんだぜ? 」
「兄の威厳っていうのがあるんだよ。てか、何、その上から目線の話。あんた、俺と双子なんだからな。対等にモノを言え。」
「言ってるだろ? 俺は、いつでも、おまえと対等なつもりだ。」
「よく言うぜ。俺に仕送りしてる段階で上から視線だ。」
「あーいや、あれは・・・・。」
「わかってるよ。でも、ムカついたから言っておく。」
作品名:こらぼでほすと 厳命8 作家名:篠義