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憂鬱シャルテノイド 後編

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 風斗の言葉に前方へと目を向ければ、彼方に白い人影らしきものが見える。目を凝らしても、それが果して人間なのかまでは分からない。
 とにかく、今は行ってみるしかないだろう。万が一敵だったとしても、その時はその時だ。戻ってもシャドウがいるだけなら、あれに賭けてみるしかない。
 徐々に近づいていくにつれて、その人影が白く見えたのは白い服を身に纏っていたからだと理解する。緩くウェーブがかかっている灰色の髪にどこか見覚えがある気がしなくもないが、いくら記憶を手繰ったところで出てくるはずもなかった。
 相手は背中を向けたまま此方に気づく様子もないので、声をかけるべきかどうか一瞬迷ったが四の五の言っていられる状況でもない。
「なあ、お…!」
 声の届く範囲まで距離が縮まってきたので呼びかけようとした刹那、風斗の腕を引いていた手が向かう方向とは逆に引っ張られた。当然それ以上先に進めるはずもなく、足は止まってしまう。
「ちょ、何だよ仁科っ」
 突然のことに驚いて振り向けば、いつになく険しい表情の風斗が網膜に映る。普段は冷静なことこの上ない彼が、こんな顔をする時は。
「…よく分からないが…あれに近づいたら、まずい気がするんだ」
「……マジ、かよ」
 こういう時、風斗の直感は大体当たる。しかも、何か間違えそうな時なら尚更だ。すんでの所で止めてもらえたとはいえ、もし声をかけていたらどうなっていたのかと思うとぞっとした。
 しかし、後ろからはシャドウが追ってきている。前方にいる人影も敵だとしたら、逃げ道を完全に塞がれたも同然だ。いったい、どうしたら?
 そうこうしている内に、シャドウの気配が近づいてきた。こうなればもう、戦うしか道はなさそうだ。
 腹を括って立ち止まり、風斗を背中に庇う形でシャドウに相対する。いつでも応戦できるように手にしたマルアークを構え、ペルソナも呼び出せるように精神を集中した上で。
 何が何でも、風斗は守ってみせる。もうこれ以上、大切なものを失ってしまうわけにはいかないから。幸い、後ろの人影の方はそれなりに距離もあるし、まだ気づかれていないようなので気にしつつ戦えば多分大丈夫だ。
 武器を構えたことで攻撃の意思があることを悟ったのか、シャドウの姿が見慣れた黒い姿から違うものに変じていく。
 ぐにゃりと歪んだ体は暗闇の中でもはっきりと視認できる程の白に染まり、ぼろぼろになった外套を身に纏う一つ目の怪物へと変化する。
 今までのダンジョンでよく見かけたものによく似ている気がしたが、両腕が鎌に変化している時点で何か違うような。…とはいえ、油断できない存在には変わりない。先程感じた悪寒からして、それなりに強いと思った方がいいだろう。
「スサノオ!」
 それならば先手必勝、自らを奮い立たせるように半身の名を紡ぐ。呼応するように巻き起こった風は迷うことなく眼前のシャドウへと向けられた。疾風の刃は外れるもなく黒い体を切り裂いていくのと同時に、人ならざるもの特有の不可解な悲鳴が響きわたる。
 そうして怯んだ隙を狙って、陽介は敢えて敵の懐へと飛び込んだ。素早く動ける分、敵の虚をつくやり方が自分の流儀だ。一人で戦う以上、出来るだけ無駄な動きをしないようにしなければ此方が危ない。
 マルアークを横なぎに振るい、シャドウを切り裂く。まるでゼリーに刃を入れたようにするりと滑り込んだ刃は、いとも呆気なくその体を真っ二つにしてしまった。ぼとりと落ちた上半身が数秒程もがくように動いていたが、すぐに絶命したのか動きが止まる。
「……?」
 あまりにも簡単に倒せてしまったことに妙な違和感を感じつつも、陽介は一先ず一難去ったとほっと胸を撫で下ろした。
 少々呆気ない気はしなくもないが、倒せたのならそれでいい。向こうにいる人影も味方ではない以上、長居は禁物だ。どうにかして、此処から出る方法を模索しなければ。
「おい、気をつけろ! 足下だ!」
「え?」
 唐突に背中から聞こえてきた声に振り向く間もなく、何かが体に絡みついた。
「なっ…!?」
 一瞬何が起こったのか分からなかったが、視界に映った黒い紐とも蔦ともつかないもので何となく正体が掴める。
 やはり、まだ倒したわけではなかったのだ。考えてみれば、いつもみたいに倒した瞬間に姿が消えなかった時点で、おかしいと思わなければならなかったはずなのに。真っ二つにして動かなくなったからもう大丈夫だと、単純に考えてしまう自分の馬鹿さ加減がもうどうしようもないというか何というか。
 とはいえ、そんな悠長に考えている場合ではない。思考を巡らせている間にも、体に絡みついたシャドウの力は増している。ぎしりと骨が悲鳴を上げ、走り抜けた鈍い痛みに耐えきれず膝をついた。まずい、このままでは。
「っ、この!」
 駆け寄ってきた風斗がどうにか戒めを解こうと試みるが、黒いシャドウの体はまるで水のように指をすり抜けて思うようにいかないようだ。困惑の表情を浮かべつつも、それでも諦めようとしない彼の姿に何となく嬉しくなってしまう自分がいる。
 そういえば、まだ名前を教えていなかった。だから呼んでもらえなかったんだよなと、今こんな時に考えるべきじゃないことが脳裏をよぎった。そんな自分に内心苦笑いが漏れると同時に、なんとなく寂しくもある。
 せめて、最期くらいは。名前、呼んで欲しかったな。
 そう思った瞬間、首に黒い蔦が絡みついた。